日機装の文化

2022/11/28

海外で働く社員インタビュー 〜ドイツのものづくりと働き方〜

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海外で働く社員インタビュー 〜ドイツのものづくりと働き方〜

目次

独創的な発想と高度な技術で幅広い事業を展開している日機装。そのネットワークは、ここ数年で世界規模に拡大しています。 

なかでもドイツは、欧州展開の重要な拠点として、50年以上前にポンプ事業を行う子会社を設立。2009年にドイツの大手ポンプメーカーLEWA GmbH(LEWA社)を買収したことをきっかけに、欧州をはじめとした海外展開を本格化させ、海外売上高比率60%以上のグローバル企業へと変化させてきました。 

今回は、日機装からLEWA社に駐在している内田 貴之氏と、Nikkiso Europe GmbH(Nikkiso Europe)で働く松原 祐樹氏にインタビュー。ドイツで働くお二人に、ドイツのものづくりと働き方、またそれぞれの今後の目標について話を聞きました。  

内田貴之:インダストリアル事業本部所属。CMPグローバルビジネスディベロップメント。2021年7月からLEWA社に出向、キャンドモータポンプのグローバル販売を推進している。 

松原祐樹:日機装ヨーロッパ セールス&マーケティング部所属。ヨーロッパ、中東、アフリカ各地で透析装置の販売営業を行っている。また、ヨーロッパ市場と日本のインターフェイスとして市場要求を日本へ展開し、より良い製品開発のためのインプット、日機装ヨーロッパの各部署の連携強化の仕組みづくりを行っている。 

※所属・肩書は取材当時のものです。

ドイツと日本の架け橋役となることで感じた、アプローチの違い 

ー本日はよろしくお願いします。まずは、お二人の現在の仕事内容を教えてください。

松原 祐樹氏 

松原:2019年から、欧州市場向けに透析事業を展開するNikkiso Europe(独)に駐在しています。セールスマーケティング部に所属しているので、Nikkiso Europeの売上をどうやって上げていくかを考えることが主なミッションになりますが、数少ない日本人駐在員ということもあり、日本と欧州の橋渡し役として幅広い業務に携わっています。 


内田 貴之氏 

内田: 私は2021年7月から、ドイツの大手ポンプメーカーLEWA社に駐在しています。日機装は、LEWA社のセールスチャネルを使って「キャンドモータポンプ(CMP)」をグローバルに販売しています。私はCMPグローバルビジネスディベロップメントという立場で、世界市場の動向を伝えたり、販売上の課題や提案をまとめて、 LEWA社と日機装のまとめ役といった役割を担っています。 

―お二人の共通点は、ドイツで日本製品のマーケティングを行っているところにあるようですね。ドイツで駐在員として働いてみて、日本との違いを感じるところはありますか?

松原:当たり前のことですが、言語や文化が違うため、考え方のアプローチも違うので、仕事の依頼をするときは、ドイツの人に適した依頼の仕方をすることに気を使っています。 

内田:そうですね、「こういった背景でこういうことをやろうとしているから、あなたの情報をこのように使いたい」ということを丁寧に説明しないと、「情報の範囲、深さなど、どうやって決めればよいのか」といった質問がすぐに返ってくる。 

松原:そこを丁寧にしないと、自分の依頼文の10倍くらいの返事が返ってきてしまうこともあるので、ある意味依頼するのに緊張します。自分も本社からの依頼を正確に把握できていないと頼めないですね。

基本的に残業はゼロ。効率とプライベートを重視するドイツの働き方 

ーードイツの働き方に関してはどのような特徴があると感じますか? 

内田:ドイツでは、やはり仕事とプライベートの境目がはっきりしています。会議や出張よりも、プライベートを優先しながら、自身の仕事や会議、出張を上手にアレンジしており、会社としてもそれを尊重しています。仕事とプライベートの両立は当たり前の考え方なので、ドイツでは「ワークライフバランス」という言葉は一度も聞いたことがありません。 

松原:勤務時間はフレックスなのが普通ですよね。基本的には「週何時間」という契約のため、出勤した時間に合わせて、退勤時間を調整します。病院に行ってから出勤したり、毎朝プールで泳いでから会社に来る社員もいます。残業は基本ゼロです。 

内田:ドイツでは、1日の労働時間は最大10時間と決められていて、残業をするにしても1日2時間の延長までしか認められていません。そのため、残業をした日の翌日は早く帰るなどして1週間でバランスをとっています。研究開発職など、忙しい時期がある人は年単位で調整し、年末に残業ゼロになるように工夫をしています。 

残業がゼロだからこそ、ある意味「会社が持っている労働時間のキャパ=従業員の数×8時間/日×労働日数」と、簡単に計算できるんです。マネージャー職の人は、常に「限られた労働時間の中で、どうやって受注や売上を伸ばすのか」を考え、効率にこだわって仕事をしています。大型機械やソフトウェアの導入、働く環境の管理も含めて、効率をあげるにはどうすべきかを考え、必要だと判断すれば投資をすることがマネージャーに必要なスキルとされています。 

ドイツの労働生産性が高い理由は効率化とIT技術?

© LEWA GmbH

ーー日本とドイツの違いとして労働生産性がよく挙げられますが、その点についてはいかがでしょうか。 

松原:2019年のOECDのデータによると、時間当たりの労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、日本が49.5ドル※である一方、ドイツは74.7ドルとおよそ1.5倍の差があります。年間の平均労働時間は日本よりも短いにもかかわらず、ドイツの労働生産性は高いんですよね。 

その理由としては、ドイツでは先ほどお話したように「効率を求めて投資する」という考え方が主流のため、定期的に機械やシステムのアップデートをしているからだと思います。またドイツの国策として2011年から提唱されている「インダストリー4.0」で、IT技術を積極的に製造業に取り入れる改革を行っているのも大きいのではないでしょうか。 

内田:IT技術に関しては、LEWA社も早くからスマートグラスを活用しています。リモート接続でポンプに搭載したセンサ類を遠隔地から監視できる仕組みを構築してメンテナンスサービス対応をするなど、IT技術を取り入れることに積極的だと思います。 

※購買力平価換算USドル 

(参照:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」) 

「お客様の期待に応えようとする姿勢」が共通点

ーーほかにも、ドイツのものづくりに何か特徴を感じますか? 

内田:ドイツでは入念に事前準備に取り組む傾向があります。計画・準備に十分に時間をかけ、納得してからようやく実行に移します。準備時間は長くかかる代わりに、製品が仕上がるまでのスピードは速く精度も高いんですよね。 

松原:他にも、ドイツでは自社のブランド力を高めようとする意識が強いと感じます。Nikkiso Europeでも、日機装製品を欧州展開するにあたっては、規格対応力を発揮し、いち早く市場要求に応えることで日機装ブランドを高めていると思います。 

内田:LEWA社も、「ダイアフラム型往復動ポンプの分野で世界No.1」というブランドを作り上げています。ブランドをつくることで、競合との差別化を図り、できるだけ価格競争に巻き込まれない努力をしているんです。製品開発においても、できる限り製品コンセプトの段階でVoice of Customerを最大限に取り込み、そのコンセプトから外れないような販売活動を行っています。その結果、顧客の個々の使い方に対する個別設計が少なくなるため、生産効率が良くブランド維持のための投資を行うことができているのだと思います。 

一方、日本の日機装は「ブランドを前面に出して売り込む」というスタイルではないと思います。その代わりに、標準ラインアップで対応できない場合でもなんとかお客様の課題に応えようとする姿勢や、難解なトラブル対応でも最後まであきらめずに対応する姿勢があるため、結果として業界における地位を築けているのではないでしょうか。 

ーーものづくり企業として、日機装とLEWA社、Nikkiso Europeで共通するものはあるのでしょうか?

内田:特殊産業のプロとして、品質に対するこだわりや、特殊仕様にもなんとか応えようとするところ、またお客様の課題解決に貢献しようとする姿勢が、幹のところで共通していると感じます。だから一緒にやっていけるのだと思います。 

松原:それはNikkiso Europeも共通です。もっというと日機装グループ全体に共通している姿勢かもしれません。課題解決方法が、ドイツは「より効率性を重視した提案」で、日本では「かゆいところに手が届くような、お客さまそれぞれに合った細かい提案」になる、という違いはあるかもしれませんが、お客様の期待に応えようとするのは共通していますよね。

駐在員として大切なのは”環境順応性”と”気持ちの切り替え”

ーー次に駐在員としてのお二人の働き方にフォーカスしたお話もお聞きできたらと思います。ドイツで働く中で、やりがいを感じる瞬間はどのようなところにありますか? 

松原:いままで日本で生活している中で、日本の常識や価値観に凝り固まっていた部分もあったのですが、ドイツでは毎日新しい発見があります。それも大きなやりがいの一つになっています。また、日本では透析装置の営業を担当していて、お客様に近い現場で働いていたのですが、現在は駐在員として、マネジメントに近い仕事にも携われることにやりがいを感じています。 

内田:国ごとのものづくりに対する考え方の違いを知ることによって、「より良いものづくりとは何なのか」を考えるようになりました。効率化や作り込みなど、日本と他国の比較をして見えることも沢山あります。お互いに異なる点も取り入れ、良い製品づくりをより深く追求できたらと思っています。 

ーー反対に駐在員として働いていて、大変に思ったり苦労したりする点はありますか? 

松原:苦労というほどではないですがドイツでの会議では、意見がストレートなことが多く少し慣れる時間が必要でした。日本人は気を遣って言葉を選んだり、遠回しに表現することも多いですが、ドイツでは意見を出す場においては、皆平等に意見を述べます。そのため私自身も、日本にいた時よりはっきり意見を言うようになったと感じます。 

内田:海外駐在では、そうした環境順応性が求められますよね。文化の違いって、本を読んで理解できるものではなくて、直面して体感することで理解できるものだと思います。自分は比較的気にせずに乗り越えられる性格だと思っていたのですが、はっきりノーと言われた時には結構引きずりました。「業務上の意見の対立であって、個人のいざこざじゃない」としっかり自分に言い聞かせて、週末は仕事のことをいっさい考えない、と切り替えないと、気持ちが病んでしまうと思ったこともあります。 

ドイツの人たちは週末はリラックスする、とよく口にしますけど、たぶんドイツ人も同じような事を考えているんだろうなと。そうしないと彼らも疲れちゃうんだろうなと、最近は思います。 

LEWA社との関係、 Nikkiso Europeの今後

ーー日機装は2022年8月1日付で、ドイツLEWA社およびオランダGeveke社の全株式を譲渡されましたが、今後LEWA社との関係はどうなるのでしょうか。 

内田:資本関係は無くなりますが、事業上の付き合いは基本的には変わらずに続けていきます。一方いままでよりも責任の境目は明確になってくるため、これまで以上に責任感を持ちお互い協力し合いながら、事業をさらに伸ばしていきたいと考えています。2019年には、CMP事業の成長を議論する為に「CMP Global会議」を開催し、さまざまなTo Doを設定しました。今年は、これらの成果が一つ、また一つとリリースされます。「CMP Global会議」で決定した内容を、より早く販売・実運用に移し、利益に貢献できるようにLEWA社、Geveke社と一体となって、運営していこうと思います。 

ーーNikkiso Europeの今後の展望についてはいかがでしょうか。

松原:日機装は透析装置の製造・販売において日本ではマーケットリーダーですが、国内は人口減少傾向であることから、海外市場での成長が必須だと考えています。欧州だけに限らず、アフリカや中東などの地域のマーケットシェアを拡大していけるように、それぞれのマーケットに沿った製品の開発・販売にも、力を入れて進めていければと思います。 

また新規顧客開拓だけでなく、既存のお客様に対しても、日本ならではの高品質なサービスを提供していきたいです。コロナ禍では沢山のトラブルが発生し、ご迷惑をおかけしてしまったこともありましたが、引き続きお付き合いを続けてくださるお客様に対し、信頼の回復を図るとともに、より強固な関係を築けるよう努力していきたいです。