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2025/07/14

【日本航空×日機装#2】脱炭素に貢献するCFRP、そして日機装に期待すること

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【日本航空×日機装#2】脱炭素に貢献するCFRP、そして日機装に期待すること

目次

気候変動問題の解決に向けて、航空業界で脱炭素への取り組みが加速しています。そのトップランナーとして業界を牽引するのが、日本を代表する航空会社・日本航空(JAL)グループです。2050年のネット・ゼロエミッションを目標に掲げ、先進的な取り組みをさまざまに行っています。

2回に分けてお伝えしている、JALグループの皆さまへのインタビュー。第2回目となる本記事では、利用が広がる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、そしてCFRPの加工に強みを持つ航空機部品メーカー・日機装に対する期待について、お話を聞きました。

中野 剛:日本航空株式会社 整備本部 事業推進部 官民整備事業グループ マネジャー。1993年の入社後、4年間の航空機整備士経験を経て、2022年春までエンジン技術業務に従事し、タービン翼の修理技術開発、各種部品修理開発、エンジン、機体の不具合原因解析、対策立案、エンジン水洗浄導入などを担当。2024年1月からは現部署で、主に防衛省の航空機、エンジン、装備品などに対する整備受託などを担当。


緒方 隆裕:株式会社JALエンジニアリング 技術部 システム技術室 機体技術グループ。入社後は羽田航空機整備センターに配属となり、航空機塗装の塗り替えや特別塗装機のデカール仕上げなどの実作業を担当。2023年1月から現部署で、航空機メーカーの発行する文書の評価、整備士への作業指示書の作成、リブレットプロジェクトなどを担当。


(※所属・肩書は取材時点のものです)

機体軽量化で、燃費性能の向上に貢献。活用が広がるCFRP

——なぜCFRPを使用すると、二酸化炭素(CO2)排出量が削減されるのでしょうか。

緒方:機体の重量が軽くなれば、機体を飛行させるための燃料の消費が減り、CO2排出量が少なくなります。CFRPには、軽くて、強度・耐食性に優れているという特長がありますので、近年に開発されている航空機には、従来の航空機より多くのCFRPが使われています。これにより軽量化が進み、CO2排出量は少なくなります。

機体にCFRPが活用される理由を説明する緒方さん

エアバスA350型機やボーイング787型機であれば、機体全体の約50%(重量比)にCFRPが使われています。従来の航空機の場合だと10~20%ですので、その割合はどんどんと増えています。使用部位は胴体や主翼・尾翼と非常に幅広く使われています。

燃費性能に関して言えば、エアバスA350型機の場合、燃費性能の良い新世代エンジンTrent XWBとの組み合わせにより、燃費・CO2排出量が従来の機材より25%削減できます。

軽さは航空会社にとって朗報。まだまだ利用の余地がある

——CFRPは、今後さらに活用の幅が広がるように思いますか。

中野:航空機には、まだまだアルミニウムやチタン素材が多く使われています。CFRPを使っても良さそうなのに、わざわざ腐食を防ぐために純金メッキを施してまで、チタン素材を使っている場所さえあります。軽くて良い部品ができれば、CO2の排出量を削減できますし、燃費も良くなりますから、エアラインにとっては朗報です。「CFRPの有効活用を徹底して、もっと軽い航空機を作ろうよ」と思いますね。

CFRPの可能性について語る中野さん

例えば、皆さまが航空機をご利用される際、アルミニウム製コンテナに荷物を入れて、床下のカーゴルームに収納します。アルミニウム製のコンテナは世界中で使われていますが、とても重いです。LD3という国際規格のコンテナの場合、1つ138㎏あります。仮に、これをCFRP製にして重さが大幅に軽減できれば、例えば重量半減なら1個69kgの軽量化です。

ボーイング777型機だと、LD3を30個ほど積んで飛んでいますから、69㎏×30個で約2トン軽量化したことになります。ボーイング777型機は世界で1000機以上飛んでいますが、これがすべて2トンずつ軽くなったとしたら、CO2の排出量は全然違いますよね。

——軽くて燃費性能が向上すること以外にも、CFRPのメリットはありますか。

中野:腐食しにくく、金属疲労も起きないところです。

アルミニウム製の航空機ではパーツによって腐食が起きやすく、場合によっては腐食が原因で航空機を退役させることもあります。また、金属疲労の問題も、今もって飛行機は多く抱えています。

——一方で、CFRPの利用を拡大するにあたり、課題となるのはどのような点でしょうか。

中野:CFRPのデメリットは、アルミに比べて補修に時間が掛かることです。特に、短距離の便数を多くこなすことが重要な小型機にとって、補修に時間が掛かることはCFRPを導入するうえでネックとなります。ですから、これまでよりも短い時間で補修できる修理ツールを、開発してくれたら良いのにと思います。

航空会社のニーズを知り、技術力を生かして提案を

——CFRP製の航空機部品メーカーである日機装に、期待することはなんでしょうか

中野:日機装さんのご知見を活かして、OEMやティア1に改善点をご提案して頂けると、航空機の開発により弾みがつくと思います。

航空機のどの部分に重量や腐食、金属疲労の問題があるのか検証し、「ここはCFRPにした方が良い」と日機装さんから自らのご知見によってご提案いただき、既存素材からCFRPへの置き換えを促していけば、ビジネスはさらに拡大していくでしょう。それは、ユーザーであるエアラインにとっても、メリットがあります。

具体的なニーズを出すことは、航空会社からでないと難しいと思います。ですから、航空会社と部品メーカーとの意見交換の場が大切です。

※OEMは、ボーイングやエアバスなど航空機メーカー。ティア1は、OEMに直接部品を納入する1次サプライヤー。

日機装・横田(航空宇宙事業本部 副本部長):私たちも実際に航空機を運航しているJALさんをはじめとした航空会社様が、どのような点に困っており、改善してほしいと考えているのか、なかなか把握し切れていません。今年からJALさんとは技術交流会を開いていますが、こうした意見交換を通じて、ユーザー目線の課題感を知ることができればと思います。

CFRP製の試作品をつくり、JALさんから評価や改善点の指摘などをもらいながら、最終的には航空機メーカーへ共同提案をする。そんな将来像を描くことができれば良いなと考えております。

点検中のボーイング787型機を見学する日機装・横田

中野:整備場などを見学しても、廃棄されやすい部品などが分かると思います。そのようなところから、開発のヒントを得てもらうと良いかもしれません。色々な開発の未来が描けるはずなのに、そのニーズが気づいておらず、せっかくの技術力が生かせていないようにも思います。

良いものを作るメーカーとは、良い関係性を構築したい

——航空会社と部品メーカーのあるべき関係性は、どのようなものでしょうか。

中野:私たちは、ボーイング社、エアバス社、あるいは部品メーカーをあまり区別して考えていません。「良いものを作ってもらえるメーカーと、良い関係性を構築したい」というのが、私たちの基本的な考え方です。

将来的に、日機装さんの開発技術と弊社の運用経験を融合させて、共同で航空機メーカーに技術提案をするということがあっても面白いと思います。新たな技術開発に必要な情報もご紹介します。ぜひ私たちを使ってください。

弊社としても、御社からCFRPに関する知見を得たいので、人材交流のような機会があっても面白いかもしれません。私自身、10年以上前に日機装さんの工場を見学したことがあります。そこでブロッカードアの意外な製造方法を目の当たりにして驚きました。そんな経験を自分の後輩たちにもしてほしいです。技術部員として、人生が変わるほどの経験になると思います。

せっかく世界シェア9割を占める製品を持つメーカーが日本に存在したのに、これまでは交流の機会をあまり持てませんでした。これを機に、より良い関係性を構築していければと思います。

前回の記事「【日本航空×日機装#1】2050年の空の脱炭素へ、航空業界を牽引するJALの取り組み」はこちら


【日本航空×日機装#1】2050年の空の脱炭素へ、航空業界を牽引するJALの取り組み |Bright

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