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2024/11/25

【後編】エンジンナセル部品から翼、胴体部品まで、製品の幅を広げるNikkiso Vietnam, Inc.

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【後編】エンジンナセル部品から翼、胴体部品まで、製品の幅を広げるNikkiso Vietnam, Inc.

目次

エンジン逆噴射装置部品「カスケード」を主力製品とする日機装の航空宇宙事業本部。いま製品ラインナップのウイングを急速に広げ、エンジンナセル部品から翼や胴体部品に至るまで、幅広く製造しています。その推進力となっているのは、ベトナム・ハノイ近郊で2つの工場を運営するNikkiso Vietnam, Inc.(NVI)です。

手掛ける製品は、なんと約250品目。日々、新しい製品づくりに挑戦するNVIのエネルギッシュな姿に、日本人とベトナム人の目線から前編・後編の2回で迫ります。後編は和氣充幸工場長とグエン・タン・ナム製造シニアマネージャー、グエン・タン・コン検査マネージャー、グエン・アン・トゥアン生産管理マネージャーから、多品目の製造を実現している現場のカイゼン活動や取り組みについて話を聞きます。

「現状に満足せず、常にカイゼンすることもNVIの強みです」

――工場長として、ベトナム人スタッフが活躍する現場をどのように感じていますか

和氣:「こうやったらどうですか」と、アイデアを現場から上げてくれます。現場力は本当に強いです。わざわざミーティングを設けているわけではありませんが、日々カイゼン活動(※)をしてくれます。NVIには「カイゼン」という部署があり、作業の効率化を図るために治具(製品を製造するための道具)を制作したり、作業の動線を改良したりしてくれます。私が「治具と部品を乗せる台を作ってほしいのだけど」とお願いすると、次の日には作ってくれたこともありました。驚くべきスピード感です。

※カイゼン活動…製造現場のスタッフが生産性や安全性などを高めるため、自発的に作業や治具などの効率化を図るボトムアップ活動。

ナム:これまで治具の制作は外部に依頼していたのですが、希望のものが出来上がってきませんでした。図面を作ったり、見積もりを聞いたり、発注書を書いたりと、手間も掛かりますよね。それならば自分たちで考えた方が仕事がしやすいなと思い、試作を繰り返すようになって、制作物の精度が上がってきました。現状に満足せず、常にカイゼンし続けることもNVIの強みだと考えています。

ナム製造シニアマネージャー

和氣:NVIはかなり多い数の製品開発を同時進行で行っているので、毎日のように開発品に適した治具や作業道具のニーズが出てきます。なので、カイゼン活動に対する機動力はものすごいです。

――ベトナム人の方もマネジメントに加わっているのは、どのような狙いですか

和氣:特別な意図はないですよ。優れた方は適切に配置したいという考えです。

NVIは量産が始まってから15年の歴史がありますが、例えばナムさんは14年働いてくださっています。ナムさんは、前職では生産技術の仕事をしていて、NVIでも当初は製造現場にいましたから、動線管理やものづくりのノウハウが豊富です。そういう能力の高い方には、重要な役職に就いてもらうのが自然なことでしょう。

ベトナム人の方がマネージャーをやることで、部下の困り事をきめ細やかに理解することができる側面もあります。能力があれば、各部署のマネージャーは現地のベトナム人が務める体制を進めていきたいと考えています。

——ベトナムの方と力を合わせて働くために、工場長として意識していることはありますか

和氣:ベトナム人が求めることに、できる限り応えていくことです。

例えば、ベトナムでは社員旅行が活発です。NVIには従業員が約940人いるのですが、いつも5、600人参加します。バスを10台以上チャーターして行くんですよ。現在は1泊2日なのですが、労働組合から2泊にしてほしいと要望が来ています。それほどです。

日本では“社員旅行は過去の文化”というイメージですが、ベトナムでは“会社で働いている人はみんなファミリー”といった感覚なので、みんな参加したいんです。そういう感覚を尊重して、真剣に考えていきたいです。今年は予算が取れず、1泊2日のままですが…(笑)

「カイゼンのための議論は、現場で自発的に行われています」

――ベトナム人マネージャーのお三方に、改めて職務を伺いたいと思います。まずはナムさんいかがですか

ナム:私は第1、第2工場合わせて約500人の製造スタッフを率いる製造シニアマネージャーです。現場を見ながら、より効率的な製造を行うための助言やトラブル対応の指示などをしています。原因と対策を示しながら指導すると、スタッフたちも自発的にカイゼン活動をしてくれて、皆さん楽しみながら仕事をしている雰囲気です。

――多品目の製品を製造していくうえで、スタッフ教育はどのように行っていますか。

ナム:航空機メーカーが要求する仕様書(スペック)は複雑なため、まず私がその解釈の仕方をスタッフたちに提示してあげます。一度そのように示してあげれば、スタッフの皆さんも正しく読み解いて、より良いカイゼンのための議論を現場で自発的に行っていくことが可能です。また、別の製品に対しても水平展開していくこともできます。

㊧トゥアン生産管理マネージャーと㊨コン検査マネージャー

——コンさんが担当しているお仕事は、なんでしょうか

コン:私は検査マネージャーを務めており、約200人の部下がいます。

業務は大きく分けて3つあります。1つ目は、受け入れ検査です。サプライヤーから送られてくる材料が正しいか、品質に問題がないかを確認します。2つ目が、工程内検査です。製造の過程で、正しく製造が行われているかを確認します。3つ目が、最終検査です。お客さまに出荷する前の最後の砦として、すべての製品要求が満足しているかを確認し、書類を作成します。

——250品目もの製品が製造されているNVIでは、検査も大変そうですね

コン:顧客によって、製品の要求も異なります。したがって、それぞれの検査員は自分の担当製品の要求をよく知り、正しく検査する必要があります。

スペックの多くは英語で作成されていますので、ベトナム語しか分からない検査員には特に十分に教育をする必要があります。そのため、顧客の要求を基にベトナム語の書類を作成し、約6か月間の教育訓練を受けてから製品検査に臨むようにしてもらっています。教育訓練では、どの製品でも共通の事項を理解してもらった後に、現場でOJTを行います。その後、認定テストに合格すると、初めて検査員として認定されます。

和氣:ベトナム人の方々は皆さん、とても実直です。やらなくてはいけないことを書類で示して、しっかりと教育すれば、かなり適切に実行してくれます。逆に言えば、その仕組みを構築することが重要です。それさえできれば、マネージャーとしては定期的に実行できているか、チェックするだけで十分なのです。

——トゥアンさんのお仕事はどのようなものですか

トゥアン:私は生産管理マネージャーで、部下は15人います。

業務は、大きく分けて3つあります。1つ目は、生産計画や在庫計画の策定です。これを基に工場は動いていて、材料の発注計画なども決まっています。2つ目は、日々更新される顧客の需要の確認と、それに応じた在庫計画の修正です。

3つ目は、NVIの生産キャパシティの分析とリソースの確認です。お客さまから急にたくさん製品が欲しいと言われても、設備や治具、人員などが足りていないと対応できません。自分たちがどれだけの製品を生産できるかを、分析することも重要な仕事の一つです。

例えば、2か月後にある製品を10個納品してくださいと注文があったら、いつから作らなくてはいけないのか、何かあった時のために在庫はどれくらい必要か、材料はいつまでに手配しなくてはいけないのか、それは現実的なのか。そういったところを、すべて確認しています。

――多品目の製造が同時に進むなかで、生産計画を立てるのは難しくありませんか

トゥアン:例えば、ボーイングプログラムとエアバスプログラムといったように、担当者ごとに製品を分担して、抜け漏れないよう対応しています。

苦労するのは、顧客が求める製品の数量が急に変わった時です。残業が発生してしまうこともありますし、材料の発注、受け入れも急ぐ必要があります。航空需要が激減したコロナ禍では、逆のつらさもありました。急に製品を要りませんと言われてしまったのです。しかし、仕事が無くなってしまうのもまずいので、生産計画のスピードを緩めて、人員の配置転換などをして、「業務が無い」という状況を生まないようにしました。

――生産計画はどのように作っているのですか

トゥアン:経験とデータの両方ですね。ベースとなっているのは、NVIが蓄積してきた経験です。一方で、毎月キャパシティミーティングを開催していて、そこで各部署から各工程に掛かる時間の実績値が集まってきます。経験と実データの両面から照らし合わせて、生産計画を調整しています。

「アジアでNO.1のコンポジット工場を目指します」

――では最後に、皆さんが今後取り組んでいきたいことを教えてください

ナム:これまでスペックに対する解釈は開発部門、あるいは日本の日機装に頼ってしまっている面がありました。それを製造現場のスタッフまで浸透させることで、不適合やトラブルが減ってきたと感じています。今後も、カイゼン活動の水平展開により第1工場、第2工場ともに製造のレベルを上げていくことで、お客さまからの受注を増やしていき、NVIをより大きな会社に成長させたいです。

コン:NVIは成長中ですが、今後も成長し続けなくてはいけません。そのためには、検査員の検査スキルの向上が必要です。以前は、検査の手順書といった書類は、日本の日機装に作成してもらっていました。しかし、最近では、顧客要求を深く理解するために、NVIが自ら書類を作成し、教育するようにしています。

トゥアン:NVIはより多くの受注を獲得し、成長していきます。そのために、スタッフの能力の底上げが必要です。特に新しいことに取り組むときに、変化によるリスクを予測できることが重要だと考えています。そのために毎日、関連部署と生産計画の進捗、およびリスクの話し合いをしており、その中で自分の考えを発信させて、自ら考えさせるようにしています。

――それでは、最後に和氣工場長に今後NVIが目指す姿を伺いたいと思います

和氣:NVIは現在、航空宇宙製品を製造するコンポジット工場としては、少なくともベトナムでナンバーワンです。しかし、将来目標としては、アジアでナンバーワンと言えるくらいに、目線を上げていきたいです。

いま航空宇宙産業のコンポジット分野に関しては、中国やマレーシアが強いです。しかし、世界的に中国が抱えるリスクを回避したいという動きがあるため、ベトナムが今後、活発になっていくだろうと考えています。そこでNVIが勝ち抜くためには、「アジアでナンバーワンのコンポジット工場」を目指さなくてはいけません。

——「アジアでナンバーワン」になるためには、何が必要でしょうか

和氣:まずは人でしょう。人員の教育が必要だと考えています。それから、二つ目が品質。良い品質の製品をお客さまに届ける、そしてお客さまに満足してもらうことです。三つ目が、開発力の強化です。今後、eVTOLなど新たな空のモビリティが誕生してきた時に、良い品質の製品を提供し続けるだけでなく、お客さまの要求が変わった場合に、どれだけフレキシブルに対応できるかといった柔軟さも必要です。いま開発は日本の日機装に助けてもらっている面が多いですが、連携を維持しつつも、NVIの中でも開発できる能力を育てていきたいです。

2027年には、日機装技術研究所(東京都東村山市)に新研究棟が完成し、研究開発がさらに加速します。研究所は設計の観点から「こんなふうにしたら、もっと軽量化できる」「もっと信頼性が向上する」というアイデアを生み出す。NVIではこれを受けて迅速に実用化し、ものづくりの観点から更に付加価値を足してお客さまに提案する。そんなサイクルができたら理想的だなと考えています。

「あそこに任せたら、どんどんカイゼンして、より良いものを作ってくれる」。そんな信頼されるサプライヤーになりたいです。