くらしを豊かに
2023/10/11
脱炭素社会を支える蓄電池。EV向け「リチウムイオン電池」の製造工程や注目の新技術、市場動向を解説
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目次
「リチウムイオン電池」とは、充電することで繰り返し使える蓄電池(二次電池)の中でも、電極にリチウムが使われたもののこと。
耐久性が高く大容量の電力を蓄えられることから、家電からインフラまでさまざまな用途で使われており、脱炭素化の動きの中で “モビリティの電動化” を支える大切な技術として注目されています。
今回はそんなリチウムイオン電池の概要や製造工程、注目の新技術について詳しく解説します。
モビリティの電動化により、進化を続ける蓄電池
脱炭素社会の実現に向けて自動車をはじめとしたモビリティの電動化が進められる中、その性能を高めるために大切な役割を担うのが「蓄電池(バッテリー)」です。
サイズや蓄電できる容量、出力、バッテリー持続時間、充電時間などさまざまな観点から技術開発が進められ、蓄電池は進化を続けてきました。
2023年6月には、トヨタ自動車が電気自動車の性能向上のために、小型化しやすく長い航続距離と充電時間の短縮が実現できる「全固体電池」の実用化を目指す方針を掲げたと報じられ、注目を集めています。
(参照:讀賣新聞オンライン 2023,6)
EV普及に伴い、リチウムイオン電池市場は拡大傾向に
蓄電池市場は電気自動車市場の成長に伴って急拡大する見通しで、車載用においては、2030年に2019年比約16倍の約33兆円、2050年にはさらに約2.5倍の約53兆円に及ぶと見込まれています。
(参照:経済産業省「蓄電池産業戦略」2022, 8)
蓄電池の中では、電気自動車にも使われる「リチウムイオン電池(LIB:Li-ion Battery)」が主流となっています。電気自動車市場の拡大を受け、車載用のリチウムイオン電池市場の規模は2021年には前年比220.9%(容量ベース)に。さらに今後も拡大を続けていくとの予測がなされています。
(参照:矢野経済研究所 プレスリリース「車載用リチウムイオン電池世界市場に関する調査を実施(2022年)」2022,7)
そもそもリチウムイオン電池とは?
リチウムイオン電池とは、充電して繰り返し使える蓄電池(二次電池)の中でも、あらゆる金属の中で最も軽い元素である「リチウム」が電極に使われているもののこと。
かつてはスマートフォンやパソコンをはじめとした小型の電子機器での使用が中心でしたが、技術の進化が進む中でその用途は次第に広がってきました。今では、車載用バッテリーや太陽光・風力発電の蓄電池などとして広く活用されています。
そんなリチウムイオン電池には、現在主流の「液系リチウムイオン電池」と、次世代の電池と言われる「全固体リチウムイオン電池」の2種類があります。
液系リチウムイオン電池/全固体リチウムイオン電池の違い
(出典:経済産業省「蓄電池産業戦略」2022,8 )
液系リチウムイオン電池と全固体リチウムイオン電池の違いは、リチウムイオンが正極と負極の間を移動する際の通り道になる “電解質” が、「液体か固体か」にあります。
【液系リチウムイオン電池】
リチウムイオンが液体の電解質を通って正極と負極の間を移動することで、電気エネルギーを溜めたり使ったりできます。正極と負極が触れ合ってショートしてしまうことを防ぐために中央部にセパレータという仕切りがあるのは、液系のリチウムイオン電池ならではの特徴です。
電解質には可燃性の液体が使われているため、高温の環境下では発火などの事故が起きるリスクがあります。また電解質が液体の場合、低温になると電解質の内部で抵抗力が高まりイオンの動きが鈍くなってしまい、電池の性能が下がることも懸念となっています。
【全固体リチウムイオン電池】
リチウムイオンが固体の電解質を通って正極と負極の間を移動することで、蓄電池としての働きが生まれます。電解質が固体の場合、正極と負極が触れ合うリスクはないため、液系のリチウムイオン電池と異なりセパレータは不要です。
液系リチウムイオン電池と比べて小型化しやすい・航続距離がのばせる・充電時間を短縮できるといった性能面でのメリットがあります。
また、電解質に可燃性の材料が使われていないため、高温環境下での安全性が比較的高くなります。また低温になった際も、電解質内部の抵抗は液体の場合ほど大きく上がらないため、電池の性能も大きくは変化しません。
再び注目を集める“リン酸鉄“リチウムイオン電池
性能面でのさまざまなメリットから、全固体リチウムイオン電池は電気自動車の性能を大きく向上させるものとして注目されていますが、寿命や量産技術などに課題があり実用化にはもう少し時間が必要です。そのため、2030年ごろまでは液系リチウムイオン電池が主流であり続けると予想されており、現在もまだまだ性能のアップデートが続けられています。
そんな液系リチウムイオン電池は、EV用のバッテリーとして正極に三元系(ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム)を使用するものと、リン酸鉄リチウムを使用するものの2種類があります。
三元系(ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム)は、エネルギー密度が高く、安定した出力を得られるのがメリットです。しかし、ニッケル・コバルト・マンガンという希少金属を必要とするためコストが高くなります。
一方、リン酸鉄リチウムは希少金属を使用しないため、コストを抑えられます。また、三元系と比較するとエネルギー密度が低くサイズが大きくなってしまうことが課題でしたが、近年の技術革新によって小型化できるようになりました。さらに、熱に強いという特性を生かして密集して配置すれば、出力を向上させることも可能。最近ではトヨタ自動車が新型のリン酸鉄リチウムイオン電池の開発を発表するなど、再び注目されているバッテリーなのです。
(参照:トヨタ自動車)
リチウムイオン電池の製造工程
一般的なリチウムイオン電池は、次のような流れで製造されます。
電極の原材料を混ぜ合わせ、バインダ(接着剤)と合わせてペースト状にする
1.のペーストを金属箔に塗る(塗工)
塗工したものを乾燥させ、ローラーでプレスする
適当な大きさに切断する
正極と負極の間にセパレータをはさみ、巻き取る
巻き取った電極をセル(ケース)に入れる
セルに電解液を注入し、電極を浸す
充電と放電を繰り返して電池を活性化させ、内部に発生したガスを抜く
ガス抜きなどの仕上げが終わったリチウムイオン電池について、容量や性能を検査して問題がなければ完成となります。
こんなところでも活躍。日機装のポンプ技術
日機装のポンプ技術が、リチウムイオン電池の製造現場でも活躍していることをご存じでしたか?
上記の「1.電極の原材料を混ぜ合わせ、バインダ(接着剤)と合わせてペースト状にする」という工程では、溶媒として「NMP(N-メチル-2-ピロリドン)」という物質が用いられます。この物質は引火性や健康への有害性があるため、注入する際には特別の注意が必要です。
こうした危険な液体を取り扱う際に、完全無漏洩を実現した日機装の「キャンドモータポンプ」が使用されることがあります。1963年の完成以来、化学工業分野を含むさまざまな分野の液体移送を支えているのです。
まとめ
脱炭素社会の実現に向けてモビリティの電動化が進む中、電気自動車の性能を高めるために重要な要素の一つとなる「蓄電池(バッテリー)」が進化を続けています。
蓄電池の中でも主流となるリチウムイオン電池には、「液系リチウムイオン電池」と「全固体リチウムイオン電池」の2種があり、後者は優れた性能を持つ “次世代の電池” として注目を集めています。
しかし、実用化に向けてはまだいくつかの課題が残されており、当面は液系リチウムイオン電池が主流となって電気自動車の発展を支えていくことになるでしょう。
日機装は、液系リチウムイオン電池の製造時に取り扱う危険な液体を漏洩させない「キャンドモータポンプ」を手がけています。創業以来培ってきた特殊ポンプの開発・製造の技術によって、これからも脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
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