くらしを豊かに
2022/07/12
海運業界における脱炭素 〜LNG燃料船の役割〜
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目次
気候変動問題の深刻化を背景に、2015年にパリ協定が採択され「二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を“実質ゼロ”にすること」が世界共通の長期目標のひとつとして掲げられました。現在、目標実現に向けて世界各国が取り組みを進めています。
こうした動きを背景に、国際海運の分野でも温室効果ガス(GHG)の排出削減が喫緊の課題となっています。今回は「海運業界における脱炭素」で注目を集める “LNG燃料船”について解説します。
海運業界の「脱炭素化」の背景
(出典:海事局「海事分野の低・脱炭素化に向けた取組」)
国際海運分野から排出される二酸化炭素量は、世界全体の排出量の約2.1%を占めています。海上荷動量の増加により、何も対策を取らない場合、2050年までに約7.0%(約21.1億トン)まで、二酸化炭素排出量が増加すると予測されています。
また世界の海上輸送の需要は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年は前年比4%の減少となったものの、1985年から2019年まで右肩上がりの拡大を続けており、今後も世界経済の回復・成長に伴いさらに増加すると考えられます。
(参照:国土交通省「海事分野の低・脱炭素化に向けた取組」、一般社団法人 日本船主協会「SHIPPING NOW 2021-2022 データ編」)
これらをふまえ、国際海運分野では二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出削減が喫緊の課題となっています。
【温室効果ガス(GHG)とは】 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの温室効果をもたらすガスのこと。大気中の温室効果ガスの濃度が増加し、地表及び大気の温度が上昇することにより、地球温暖化が進むと言われています。 温室効果ガス排出量削減に向け、日本政府は2030年に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)すること、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを表明しています。 |
海運業界の「脱炭素化」に向けて
国際海運分野の脱炭素化に向け、国際海事機関(IMO)において2018年4月に「GHG削減戦略」が採択されました。この戦略では、2008年を基準年として次の3つの数値目標が掲げられています。
- 2030年までに国際海運全体の平均効率(単位輸送あたりのGHG=温室効果ガス排出量)を40%改善すること
- 2050年までに国際海運からの温室効果ガス総排出量を50%削減すること
- 今世紀中のなるべく早期に、国際海運からの温室効果ガス排出ゼロを達成すること
現在はIMOで目標達成に向けた施策の検討が進められると共に、世界有数の海運大国である日本でも産学官公連携の「国際海運 GHG ゼロエミッションプロジェクト」を設立し、積極的に検討と提案を行っています。
目標達成に向けた施策の候補がさまざまある中、長期展望のもと注目されるのが「代替船舶燃料の採用」です。現在、主に船舶燃料には重油が使用されていますが、重油に替わる燃料としてLNGやアンモニア、水素、カーボンリサイクルメタンなどの活用が検討されています。
なかでも昨今、実際に増加しているのが「LNG燃料船」です。
(出典:国土交通省「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」)
LNG燃料船とは
LNG燃料船とは、LNGを燃料とする船舶のことです。LNG燃料船は、2012年就航中のものが32隻だったところから2020年には191隻に達するほど、急速に増加しています。
(参照:DNV「LNG External Webinar - 11 May 2021」)
【LNGとは】 LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)とは、メタンを主成分とする天然ガスを-162℃まで冷却し液体にしたもの。無色透明・無臭の液体で、容積が気体時と比較して1/600になることから、海上輸送で大量に運べるという特性を持ちます。船舶燃料のほかに、世界で都市ガス、火力発電や自動車用・産業用の燃料として、幅広く用いられています。 |
LNG燃料船が急増している理由
さまざまな代替燃料の中でも、LNGを活用した船舶が注目されているのはなぜなのでしょうか。ここでは主な3つの理由をピックアップして解説します。
1.環境負荷の低いエネルギーである
1つ目は、燃焼して利用するにあたっての環境負荷が低いことです。LNGは、他の化石燃料と比べて、二酸化炭素(CO₂)の排出をおさえることが可能で、温室効果ガス(GHG)の排出量削減につながります。
またLNGを燃焼させても、酸性雨や大気汚染の原因となる、硫黄酸化物(SOx)やばいじんなどが発生しません。エンジンのタイプによっては窒素酸化物(NOx)の排出が重油に比べて約30%削減できるというデータもあります。さらに将来的には、CO₂と水素から「メタン」を合成する「メタネーション」と呼ばれる技術を活用して「カーボンリサイクルメタン」に置き換えることで、ゼロエミッション燃料となることが期待されています。
2.代替燃料の中でも価格競争力が高い
水素やバイオ燃料といった、ほかの代替燃料と比べて価格競争力が高いことも理由に挙げられます。LNG燃料に対応した専用エンジンや極低温用タンクなどへの資本投資は発生するものの、ランニングコストが比較的低いことも導入の後押しになっています。
3.すでに実用化され、整備が進んでいる
そしてもっとも重要なのが、代替燃料の候補の中で唯一、船舶燃料としてすでに実用化されていることです。海運業界の脱炭素化に向けて、同じく検討が進められているものに水素燃料やアンモニア燃料がありますが、
- アンモニアの毒性や水素の密度の低さといった性質をふまえた、仕様や運用方法の検討
- 水素・アンモニアを直接燃焼できるエンジンの開発
- 安定した供給量の確保
などの課題が残り、検討が進められているものの実用化には至っていません。
一方でLNG燃料船は、北欧を中心にすでに就航実績が多数あり、日本でも2015年に初のLNG燃料船が就航しています。LNG燃料に対応するエンジンなどの市場も確立され、運航・燃料供給方法の国際基準化や、安全要件の検討も進むなど、普及に向けた環境も整いつつあります。
LNG燃料船を支える日機装の「燃料高圧供給システム」
日機装グループは、LNG燃料船のエンジンに高圧力の燃料を供給するための“燃料高圧供給システム”の設計/製造/販売をしています。
高圧タイプのエンジンは30MPa程度の圧力を持った天然ガスが必要となるため、このシステムは昇圧用のポンプとLNGを気化させるための高圧気化器、各種バルブ、計測機器類などをコンパクトにパッケージングしています。万が一の故障時にも燃料を安定供給できるように、コンパクトながらも1システムに2台(1台は予備)のポンプを搭載しています。
LNG燃料船の歴史はまだ浅いものの、世界初のLNG燃料船に納入してから多くの実績とノウハウを蓄積し、多くのお客様に信頼をいただいております。2021年度の受注高は前年比約10倍と、市場の成長とともにご注文も急増しています。
日機装のこれからの展望
日機装グループは、「極低温用各種ポンプ」をはじめ、LNG燃料船向け「燃料高圧供給システム」やボイルオフガス(BOG)を再液化する「BOG再液化装置」、「熱交換器」などもご提案しています。
昨今のアジア造船業界における、LNG燃料船、そして燃料高圧供給システムのニーズの高まりに応えるべく、韓国釜山と中国杭州へLNG関連製品の製造・試験施設の新設を決定しました。生産体制と対応力をさらに強化し、LNG燃料船の普及を支えてまいります。
まとめ
LNGは環境負荷が低く価格競争力が高いことなどから、脱炭素化に向けた有力な代替燃料として注目を集めています。海運業の環境規制の強化も背景に、実際にLNG燃料船の就航数は急速に増加しています。
日機装グループは、LNG燃料船向け燃料高圧供給システムの設計・製造において高い品質を実現できる技術力を持ち、多くのお客さまにお選びいただいています。
LNG燃料船、新たな代替燃料用のポンプおよびシステムにまつわるご相談、お問い合わせは日機装にお声がけください。
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