くらしを豊かに
2023/07/12
脱炭素に向けたアンモニア発電の可能性|基礎知識からメリット・デメリット
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目次
2021年10月にエネルギー政策の基本方針として「第6次エネルギー基本計画」が策定され、2050年までにカーボンニュートラルを実現するために向き合うべき課題とその対応策が示されました。
今回はその対応策の一つである、火力発電におけるCO2排出量削減のための「アンモニア」の活用にフォーカスし、アンモニア発電の概要からメリット・デメリット、普及に向けた課題と企業による取り組みまで、基礎知識を詳しく解説します。
アンモニア発電とは?知っておきたい基礎知識
窒素と水素の化合物で、肥料や工業材料の原料として広く利用される「アンモニア」。ここでは、そんなアンモニアを燃料として活用するアンモニア発電について、基礎知識を解説します。
脱炭素の実現に向けて注目されるアンモニア発電
2021年10月、2050年カーボンニュートラルの実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すべく、「第6次エネルギー基本計画」が策定されました。この計画では、温室効果ガス排出量の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要であるとして、「脱炭素電源の活用」や「既存の火力発電などにおけるイノベーションの追求」が方針として挙げられています。
この “火力発電におけるイノベーション” の方向性の一つに、燃やしてもCO2が発生しないアンモニアを燃料として活用した「脱炭素型の火力発電」への置き換えがあります。
現在普及しつつある再生可能エネルギーは、環境要因に電力供給量が左右されやすいという特性上、今すぐに火力発電に取って代わることは難しいとされています。電力の安定的な供給を維持しながら脱炭素化を目指すためには、電源構成の軸となっている火力発電においてCO2排出量を削減する取り組みが必須であり、この流れの中でアンモニア発電への注目が高まっているのです。
アンモニア発電の仕組みと種類
アンモニア発電は、アンモニアを燃やして熱エネルギーを発生させ、それを使ってタービンや発電機を回転させることで電気を生み出す発電方法です。燃料や発電する過程の違いから、いくつかの種類があります。
石炭火力への混焼
石炭火力発電の燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させる方法です。他の燃料と比べて燃焼時のCO2排出量が多い石炭に、燃やしてもCO2を排出しないアンモニアを混ぜることで、発電量を維持しながら全体のCO2排出量を減らすことができます。
アンモニア専焼
他の燃料との混焼ではなく、アンモニアのみを燃料として燃やして発電する方法です。実現すれば、燃焼時にCO2を全く排出しないクリーンな発電ができるようになります。
アンモニア発電のロードマップ
燃料アンモニアの導入・活用拡大に向けて設立された「燃料アンモニア導入官民協議会」では、官民共通のロードマップを策定しました。
(出典:資源エネルギー庁「燃料アンモニアの導入・拡大に向けた取組について」2021, 8)
このロードマップでは、アンモニア需要が2030年には国内で年間300万トン、2050年には国内で年間3000万トンになると想定。
その上で、短期的(〜2030年)には石炭火力を実装・導入するとともに、燃料アンモニアを安定的に供給できる体制を構築すること。長期的(〜2050年)にはアンモニア火力(専焼)の実用化・拡大を進め、また世界全体への技術展開を行うことを計画として掲げました。そして、2050年に世界全体で1億トン規模の日本企業によるサプライチェーンを構築することを目標としています。
(参照:資源エネルギー庁「燃料アンモニアの導入・拡大に向けた取組について」2021, 8)
またこの官民連携のロードマップの他に、電力各社もカーボンニュートラル実現に向けたロードマップや行動指針を発表し、2030~40年代にかけてアンモニア混焼・専焼を拡大していく方針を示しています。
一例として発電会社JERAでは、2030年までに実機の石炭火力プラントにおいてアンモニア混焼の実証試験を進め、その結果をふまえて本格運用を開始すること、さらに2030年代前半には保有石炭火力全体における混焼率20%を達成し、2040年代の専焼化開始を目指して混焼率を拡大していくことを目標に掲げています。
(参照:JERA「『JERAゼロエミッション2050 日本版ロードマップ』と『JERA環境コミット2030』」2020, 10)
アンモニア発電のメリット
アンモニア発電には、環境面ではもちろんコスト面でも大きなメリットがあることから、実用化に向けた研究開発が積極的に進められています。ここではアンモニア発電の主なメリットを3つご紹介します。
燃焼してもCO2を排出しない
アンモニアは燃焼してもCO2を排出しません。この特性をふまえ、石炭火力発電において「アンモニア混焼率20%」が実現すれば、CO2排出の20%抑制につながります。さらに、国内大手電力会社が保有する全石炭火力にアンモニア専焼が取って代われば、現在の電力部門からの排出量の半分近くにあたる約2億トンのCO2排出抑制につながると計算されているのです。
(参照:燃料アンモニア導入官民協議会「燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ」2021, 2)
アンモニアが「ゼロエミッション燃料」であることは、脱炭素化を目指す動きが世界中で加速する中、アンモニア発電が注目される大きな理由であると言えます。
既存の石炭火力発電設備をそのまま利用できる
石炭火力発電でアンモニアを混焼する場合、バーナーなど一部の機器を変更するのみで、基本的には既存の火力発電設備を利用することができます。償却中の比較的新しい石炭火力が多くあるアジアでは特に、新たな設備を構築するコストと時間を抑えてクリーンな火力発電への移行が実現できるとして、アンモニア混焼への期待が高まっています。
液化水素と比べて運搬が容易
アンモニアや水素などを運搬するにあたっては、気体の状態から「液化」して体積を小さくすることで効率化を図ります。
このとき、水素では液化するために−256℃まで温度を下げなければならず、多くのエネルギーとコストが必要になります。一方でアンモニアは−33.3℃まで温度を下げるか、もしくは常温の状態で8.5気圧(自転車の空気圧に近い)まで加圧すれば液化できることから、水素よりも簡単に、コストをかけずに運搬ができる特徴があります。
アンモニア発電のデメリット・課題
アンモニア発電には大きなメリットがある一方、普及や脱炭素化の実現に向けてはまださまざまな課題が残されています。
炭化水素からのアンモニア製造ではCO2が排出される
アンモニアは燃やしてもCO2を排出しないものの、石炭や天然ガスなどの化石燃料を使って化学反応を起こすことで製造する場合、この製造過程でCO2が発生してしまいます。
アンモニア発電が本当の意味で「ゼロエミッション」の発電方法となるためには、アンモニアの製造過程で排出されたCO2を回収して地中に貯蓄・再利用したり、また植林を行ったりといった手段でオフセット(相殺)を行うか、再生可能エネルギーを利用したアンモニア製造を実現するなどの対応が求められます。
コストの低減
燃料として大量のアンモニアを調達しようとすると、需給のバランスが崩れて価格が高騰し、電力料金などに占める燃料費の割合が高くなる恐れもあります。アンモニア混焼の実用化、普及や混焼率の向上を目指すためには、調達・生産・輸送・貯蔵などの各工程においてコスト低減を図り、燃料としての競争力を高めていく必要があります。
アンモニア必要量の安定確保
現在世界で生産されるアンモニアの多くは肥料の原料などとして用いられており、またそのほとんどが生産国で消費されています。ここからさらに混焼の実用化や混焼率の向上に伴ってアンモニアの需要が拡大すると、生産・供給が追いつかなくなってしまう可能性があります。
アンモニア発電を実用化、普及させていくためには、アンモニアを安定して確保できるよう、調達先や原料種を分散して調達を行うなどの対策も必要です。
サプライチェーンの確立
燃料アンモニアの安定供給やコスト低減のためには、これまでの肥料や工業材料の原料としてのアンモニアとは異なるサプライチェーンを構築することが不可欠です。
具体的には、アンモニア製造プラントを新たに設けて生産拡大を図ること、アンモニアの運搬・貯蔵に対応可能な設備や環境の整備を行うこと、各工程の効率を高めるための技術開発を行うことなどの対応が待たれます。
アンモニア発電の普及に向けた企業の取り組み
アンモニア発電の普及に向けては、官民を問わずさまざまな研究開発の取り組みが進められています。
発電会社JERAと総合重工業メーカーIHIは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて、アンモニアの混焼技術の確立に向けて実証事業を進めています。両社は取り組みは順調であるとし、2022年5月には大規模混焼開始時期を計画より前倒しにする方針を発表しました。
(参照:JERA プレスリリース「碧南火力発電所のアンモニア混焼実証事業における大規模混焼開始時期の前倒しについて」2022, 5)
またIHIは、2022年6月には世界で初めてアンモニア専焼によるCO2フリーの発電も実現させており、今後さらに運用性の向上や耐久性の評価などを進めていく方針です。
(参照:IHI ニュース「世界初,液体アンモニア100%燃焼によるガスタービンで,CO₂フリー発電を達成~燃焼時に発生する温室効果ガスを99%以上削減~」2022, 6)
日機装のアンモニアポンプ
燃料アンモニアのサプライチェーンにおいては、液化したアンモニアを生産地からタンカーへ、タンカーから受入施設や消費地へと運ぶ各工程で「ポンプ」が必要になります。
このアンモニアを動かすためのポンプにおいては、−33℃という低温環境でも正常に動作し、さらに腐食性と刺激臭を持つ有毒物質であるアンモニアがポンプから漏れ出さないよう、一般的なポンプとは異なる高い性能が求められます。
日機装では、−162℃という極低温の液体(LNG)に浸された状態でも正しく機能する「クライオジェニックポンプ」と、ポンプから取扱液が外部に漏れ出さず、重要部品を化学薬品などによる腐食から守ることができる「ノンシール®ポンプ」の技術を組み合わせ、液化した低温のアンモニアを安全に運ぶために用いるポンプを開発中です。
このうち、液体アンモニアを混焼させる火力発電所向けの液体アンモニア用ポンプについては、すでに開発を発表しました。
創業以来培ってきた日機装ならではの技術と経験を活かし、今後もアンモニア発電の実用化、普及を支えていきます。
まとめ
アンモニア発電は、火力発電と比べて燃料を燃やす際のCO2排出を抑制できることから、脱炭素社会の実現に向けて実用化、普及の期待が高まる発電方法です。
現在は、アンモニア製造時のCO2排出の抑制や、安定供給・コスト低減に向けたサプライチェーンの確立などの課題を解決するべく、官民連携で研究開発が進められています。
日機装はアンモニア発電の普及に欠かせない、燃料アンモニアの運搬に用いるポンプの開発を行ってきました。アンモニア発電の社会実装に向け、当社ならではの技術力とノウハウを活かして今後も技術開発に尽力していきます。
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