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2022/10/25

「空飛ぶクルマ」の実用化はいつ?eVTOLの基礎から最新情報まで徹底解説

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「空飛ぶクルマ」の実用化はいつ?eVTOLの基礎から最新情報まで徹底解説

目次

昨今、世界各国で新たなモビリティ=移動手段として、いわゆる「空飛ぶクルマ」と呼ばれる「eVTOL」の機体開発が行われています。 

今回は開発が進む「eVTOL(イーブイトール)」について、その概要から実用化に向けた課題、各社の開発状況まで詳しく解説します。 

eVTOLの基礎知識

いわゆる「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOLとは 

空飛ぶクルマ evtol

eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)とは、電動の垂直離着陸機のこと。ドローンと電気自動車技術をかけ合わせたもので、電動モーターで複数の翼(ローター)を回転させることで揚力や推力を得る仕組みになっています。日本ではいわゆる「空飛ぶクルマ」とも呼ばれています。 

世界各国で実用化を目指す動きが生まれており、現在技術開発や実証実験が盛んに行われています。 

ヘリコプターとの違い

eVTOLとヘリコプターは、同じく「ローターを回転させる乗り物」で見た目が似ていますが、明確な違いがあります。eVTOLの特徴をヘリコプターと比較してみると、両者の間には次のような違いがあります。 


ヘリコプター 
eVTOL 
動力源
燃料

バッテリー
(発電機を併用する場合も)

ローターの数
1基複数
操縦
パイロットが操縦装置を操作 自動飛行との親和性が高い

電動化されていることから、駆動時の騒音や温室効果ガスの排出を抑えられるのがeVTOLの特徴の一つです。 

さらに燃料系統や複雑な回転機構も不要になるため、ヘリコプターと比べ、構造がシンプルで部品点数が少ない機体に。整備のコストや故障のリスクを抑えることにもつながります。 

またヘリコプターではローターが一つ故障すれば飛行が難しくなってしまいますが、eVTOLでは小型のローターを複数搭載しているため、一部のローターの故障を他で補えるとの見方もあります。 

eVTOLの実現がもたらすメリット

離着陸場所の自由度の高さや騒音の少なさを特徴とするeVTOLの実用化が叶えば、

  • 離島や山間部などアクセスの悪い場所への物流・移動手段として活用できる 
  • 道路交通が遮断された被災地への物資輸送や、救急搬送にも対応できる 
  • 公共交通機関の混雑や道路の渋滞を避けた、スムーズな通勤・通学が叶う(※) 

など、さまざまなケースでメリットが生まれると考えられています。 

※eVTOLの中でも、都市部における通勤・通学などの交通渋滞解消に着目して開発が進むものは「UAM(アーバンエアモビリティ)」と呼ばれます。

eVTOLはいつ実現する?

evtolの実現

空飛ぶクルマの構想を実現するには、官民が連携して「技術開発」と「環境整備」を並行して進めていくことが欠かせません。

こうした考えから設立された、官民の関係者による「空の移動革命に向けた官民協議会」では、両者が歩調を合わせて取り組むべきことがらについて議論が重ねられ、2018年12月には「空の移動革命に向けたロードマップ」が取りまとめられました(※)。  

※2022年3月18日に改訂

2025年大阪万博での導入が目標

(出典:国土交通省「空の移動革命に向けたロードマップ(2022年3月18日改訂版)」)  

ロードマップによると、政府は空飛ぶクルマを2025年に開催予定の「大阪・関西万博」で本格的に導入する方針を立てています。

万博の会場である「夢洲(ゆめしま)」と関西空港や神戸空港などをつないで来場客を輸送する構想があるほか、大阪の市街地や湾岸部などとも接続してより多くの方々に親しんでもらう案も。その後導入を拡大していくために、万博が大切な第一歩になると見られます。

自家用運航の開始は2020年代後半か 

ロードマップによると事業者側では、 

  • 2022〜2024年度:試験飛行や実証実験などを実施 
  • 2025年度:大阪・関西万博での本格導入へ 
  • 2020年代後半:安全性・信頼性のさらなる向上や低コスト化  

と取り組みを進め、2020年代後半には「商用運行の拡大」と「自家用運行の開始」に漕ぎ着けることが想定されています。

eVTOLの実用化に向けた課題

課題

続いて、空飛ぶクルマ「eVTOL」の実用化に向けた課題を大きく3つピックアップしてご紹介します。

技術進展

運航できる距離が長くなるほどeVTOLが活躍できる場面が多くなることから、安全に・長い距離を運航するための技術開発が待たれます。

特に重要な課題は、「軽くて高容量の電源を確保するための、バッテリー技術の進展」と「機体の軽量化」の二つ。これらを叶えるべく、リチウムイオン電池と比べてより高容量・高出力を実現できる全固体電池(※1)の実用化や、軽くて強度の高い炭素繊維強化プラスチック(※2)を材料とした機体の開発に期待が寄せられています。

※1 すべての部材が固体である電池 
※2 プラスチックに強化材として炭素繊維を加えた複合材料

インフラの整備

eVTOLが新たな移動手段として定着するためには、機体の開発だけでなく運航を支えるインフラの整備も欠かせません。

バッテリーの充電・交換設備を備えた離着陸場所の建設や、衝突などの事故を避けて安全に運航するための空域管理、無線通信システムの構築などを進めていく必要があります。

法と制度の整備

安全な運航に欠かせないもう一つの要素が、法律や制度の整備です。 

飛行機やヘリコプター、ドローンなどには、それぞれに「どのような機体であれば / 操縦者がどのような技術を持っていれば、運航して良いか」「どのような場所で飛ばして良いか」といったルールが設けられています。

eVTOLは、既にある乗り物とも違う特徴を持つため、国は法律や制度の見直しを行い、また新たに基準を設ける必要があります。

eVTOL各メーカーの開発状況

現在は企業規模・国内外を問わずさまざまなメーカーが、eVTOLの開発を競って進めています。ここでは、主要メーカーの開発状況をご紹介します。 

Joby Aviation:空飛ぶタクシーの商用化に向けFAA認可を取得

出典:Joby Aviation

2009年の設立以来eVTOLの開発を手がけるアメリカのスタートアップ Joby Aviationは、2024年にアメリカ国内の都市における「エアタクシーサービス」を開始することを目指し、パイロット1名と乗員4名の5人乗りの機体の開発や飛行実証を進めてきました。トヨタ自動車も同社に出資しており、機体の開発・生産において協業しています。

2022年5月には、FAA(米国連邦航空局)からサービスを提供するために必要な「航空運送事業認可」を取得したと発表しています。 

(参照:Joby Aviation 「Joby Receives Part 135 Certificate From the FAA」2022, 5) 

日本国内におけるサービスの提供については、2022年2月にANAホールディングスと提携し、エアタクシーの実現に向けた検討を開始したことを発表しています。 

(参照:Joby Aviation 「ANA Holdings and Joby Partner to Bring Air Taxi Service to Japan」2022, 2) 

Volocopter:4人乗りeVTOLの初飛行に成功

ドイツのスタートアップVolocopterは、2人乗りの「VoloCity」と、4人乗りの「VoloConnect」、荷物運搬用ドローン「VoloDrone」の開発に取り組んできました。

短距離の都市内移動に適した「VoloCity」は、EASA(欧州航空安全機関)が定める厳しい航空基準や要件を満たすように開発されており、2024年の運航開始を目指しています。

また2022年6月には、新たに4人乗りの固定翼eVTOL「VoloConnect」の初飛行に成功したことを発表。「VoloConnect」は、2026年の運用開始を目指しています。 

2020年には、日本航空(JAL)とエアモビリティ分野に関する業務提携を結んでおり、日本における移動・物資輸送サービス提供に向けた取り組みも進めています。2025年の大阪・関西万博での飛行を目指し、早ければ2023年に日本で公開試験飛行を実施するとしています。

(参照:Volocopter「Volocopter’s 4-Seater Aircraft Takes First Flight」2022,6 Volocopter Joins Osaka Roundtable to Bring UAM to Japan」2021,10)

Lilium N.V.:新モーターを採用し7人乗り「Lilium Jet」の実用化へ 

ドイツのスタートアップLilium N.V.は、誰でもアクセス可能・持続可能な高速地域間輸送サービスの提供を目指し、パイロット1名と乗員6名の7人乗りの機体「Lilium Jet」の設計や製造、試験を実施してきました。

2022年5月には「Lilium Jet」の実用化に向け、デンソー、ハネウェルと提携し、両社が共同開発した、小型・軽量な上、作動時に排気ガスを出さない新たな電動モーターを採用するとしているほか、リチウムイオンバッテリーの大手メーカーLivent Corporationとも研究開発協力契約を締結しています。

(参照:DENSO「デンソーとハネウェル、共同開発製品が電動航空機に初採用」2022, 5)

(参照:Lilium N.V.「Lilium and Livent Announce Collaboration to Advance Research and Development for High-Performance Lithium Batteries」2022, 5)

SkyDrive:日本初の公開有人飛行試験に成功

株式会社SkyDriveは、空飛ぶクルマと物流ドローンの開発を手がける日本発のスタートアップです。2025年ごろの空飛ぶクルマ事業開始を目指し、「空の移動革命官民協議会」への参加や飛行試験などに取り組んできました。

2020年8月には、有志団体CARTIVATORと共同開発した空飛ぶクルマ「SD-03」を世界へ初めて披露するとともに、同機を使った公開有人飛行試験を成功させています。

(参照:SkyDrive「『空飛ぶクルマ』を開発する SkyDrive(スカイドライブ)世界初披露の機体「有人機 SD-03」で、公開飛行試験を成功」2020,8)

Ehang:日本の4都市で自立飛行型eVTOLの試験飛行を成功 

中国のドローンメーカーEhangは、AAV(自律飛行型航空機)の技術開発を行っており、1人乗りの自立飛行型eVTOL「Ehang 184」や、2人乗りの「EH216」を発表しています。 

各国で飛行実験を行なっており、日本では2021年の岡山市と福島市でのデモフライトに続き、2022年7月に関西地方・九州地方・四国地方でのデモフライトに成功。使用されたのはどちらも旅客機型AAV「EHang 216」で、日本初の無人eVTOLの試験飛行となりました。「EHang 216」は、2025年の大阪・関西万博での飛行を目指しています。

(参照:EHang「EH216 Completes Demo Flight Tour in 4 Japanese Cities to Mark 1,000-Day Countdown of Expo 2025 Osaka, Kansai」2022,7)

Eve Air Mobility:大手航空機メーカーEmbraer社傘下で2,060機を受注

ブラジルの大手航空機メーカー・Embraer社傘下のスタートアップ企業、Eve Urban Air Mobility。2026年の運用開始を目指し、4人乗りeVTOLの開発に取り組んでいます。

すでに22社から2,060機の受注を獲得していると発表しており、2022年7月に開催されたファンボロー国際航空エアショーでは、初のフルサイズeVTOLキャビンモックアップ(原寸大模型)を公開しました。

空飛ぶクルマと日機装

米国カリフォルニアJoby Aviation工場にてJoby社員とともに試作に取り組む、当社 技術/製造のエキスパート(Joby Aviation社提供)

日機装は、2021年にJoby Aviationのサプライヤーに選出されています。機体の軽量化を叶えるためにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の部品が多く用いられる見込みであることから、日機装がCFRP製航空機部品製造でこれまでに培った技術と経験を活かして、安定した品質の量産実現に取り組んでいます。

2022年3月には、米国カリフォルニアの製造工場において、Joby社とサプライヤーが互いの知見を持ち寄り、製品化に向けた製造方法などを検討する研修会が実施されました。日機装のエンジニアもこれに参加し、実際に試作機の作業工程に参加しながら、将来的な量産へ向けたサポートを行っています。


日機装が手がけるCFRP加工について、詳しくはこちら


クルマから飛行機、人工衛星まで活用が広がる「CFRP」。その成形方法とは|Bright

社会を根底から支える技術や製品、人々を紹介するメディア、「Bright」の記事詳細ページです。

bright.nikkiso.co.jp

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eVTOLにまつわるQ&A

eVTOLを運転するには免許が必要? 

eVTOLを含む空飛ぶクルマの操縦者・整備者にどのような資格や基準を設けるべきかは、現在「空の移動革命に向けた官民協議会」で検討が進められています。

ただし「手軽な運航」を叶えるためにも、より安全性が高く操縦が簡単な機体が開発され、ヘリコプターのパイロットよりも難易度の低い資格が設けられることが期待されています。

eVTOLの値段は?

eVTOLの値段は、構造の複雑さや運航可能距離などの条件によってさまざまです。 

一例として、東京大学発のスタートアップであるテトラ・アビエーションは、2021年7月に「4000万円〜」という価格でアメリカでの予約販売を開始しています。 

(参照:日本経済新聞「東大発の空飛ぶクルマ、7月末から米国で予約販売」) 

一般の人でも乗れるようになるのはいつ?

 政府は2025年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマを本格導入する構想を描いています。

あくまで構想段階ではありますが、これが実現すれば万博会場と近隣の空港や大阪の市街地、湾岸部などの間が空飛ぶクルマで結ばれ、一般の方々が新たな空の旅を体験できる可能性があります。 

まとめ

evtol

新たなモビリティ=移動手段として世界中で注目が高まる、eVTOL。社会実装に向けて、高性能バッテリーの実用化や機体の軽量化といった「技術開発」とその運航を支える「インフラ・法制度整備」への取り組みが進められています。

日機装は、これまでCFRP製航空機部品の製造で培ってきた技術を活用してeVTOLの機体軽量化に尽力し、eVTOLの安全・長距離運行の実現に貢献してまいります。