ものづくり
2022/08/22
クルマから飛行機、人工衛星まで活用が広がる「CFRP」。その成形方法とは
- CFRP
- 航空機
- 人工衛星
- 航空宇宙事業
目次
プラスチックに強化材として炭素繊維を加えた複合材料、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)。プラスチックならではの軽さと、炭素繊維の高い強度や剛性、耐熱・耐薬品性といった特性を兼ね備えていることから、航空宇宙をはじめ自動車、医療、レジャーなど幅広い領域で活用されています。
今回はそんなCFRPの成形加工にフォーカスし、多種多様な成形方法と、中でも複雑な形状の部品製造に適した「オートクレーブ成形法」について詳しく解説します。
活用が広がる「CFRP」実は成形加工が難しい?
CFRPとは「Carbon Fiber Reinforced Plastics(= 炭素繊維で強化された樹脂)」の頭文字をとった名称で、母材となるプラスチックに強化材として炭素繊維を組み合わせた複合材料のことです。
プラスチックと繊維の特性を併せ持ち、比重1.5〜1.7(鉄の20%、アルミニウムの60%)と非常に軽い素材で、炭素繊維の種類や配向方向などによっては鉄の10倍もの比強度(重さに対する強度)を持つのが大きな特徴です。また他に、次のような特性があります。
- 疲労特性に優れる
- 耐候性、耐薬品性に優れる
- 振動減衰特性に優れる
- 熱伝導に優れる
- 自己潤滑性に優れる
- X線透過性に優れる
- 熱膨張しづらい
これらの優れた特性から「堅牢さと軽量化を両立できる素材」として、航空宇宙や自動車、医療・介護、建築、レジャーなど幅広い領域で用いられるようになりました。最新の航空機では、機体の50%以上に複合材料が適用されるものもあります。
高い安全性や堅牢性が求められる領域でも活躍する、非常に信頼性の高い素材ではありますが、その強度や剛性の高さから変形や切削といった成形加工は困難です。また複合材料は、成形方法や形状次第でその性質が大きく変わることもあります。
CFRPの成形加工には、これらをふまえた「適切な成形方法の選択」と「設計・製造ノウハウ」が求められます。
CFRPの成形方法
CFRPの成形方法には、要求される部品の特性や形状、生産量、コストなどの要件に応じて発展したさまざまな種類があります。ここでは主な成形方法をご紹介します。
- RTM(樹脂注入)成形
プリフォームと呼ばれる炭素繊維の基材を金型の中に配置した後、樹脂を流し込んで加熱し硬化させる方法。 - Compression Molding(圧縮)成形
金型に、樹脂と繊維、もしくは繊維に樹脂を含ませた中間材料(プリプレグ)を配置し、加熱・加圧して硬化させる方法。 - Injection Molding(射出)成形
樹脂と炭素繊維が混ざったペレットを加熱して溶かし、金型の中に射出した後冷却して硬化させる方法。 - Autoclave(オートクレーブ)成形
型の中にプリプレグを積み重ねてシート(フィルムバッグ)で覆った後、真空吸引で空気や揮発物を取り除きながら、オートクレーブ(圧力容器)を用いて加熱・加圧して硬化させる方法。 - Filament Winding(フィラメントワインディング)成形
マンドレルと呼ばれる回転する芯金に、樹脂を含ませた炭素繊維の束を巻きつけた状態で加熱し、パイプ状に硬化させる方法。 - Pultrusion(引き抜き)成形
樹脂を含ませた炭素繊維の束を、加熱した金型に通して硬化させながら引き抜き、切断・巻き取りなどを行って成形する方法。 - 3D Print 成形
熱に溶ける樹脂を一層ずつ積み重ねる「熱溶解積層法」や、粉末状の素材にレーザーを照射して焼結させる「レーザー焼結法」などが研究されている。力学的
特性
形状
自由度
設備
コスト
成形
サイクル
RTM(樹脂注入)
◯
◯
△
△
Compression Molding(プレス)
△
△
△
◯
Injection Molding(射出)
×
◎
×
◎
Autoclave(オートクレーブ)
◎
◎
△
×
Filament Winding
(フィラメントワインディング)
◎
△
×
×
Pultrusion(引き抜き)
◯
△
◯
◯
3D Print
×
◎
◯
△
形状自由度が高い「オートクレーブ成形法」
数あるCFRPの成形加工方法の中でも、材料や形状の設計自由度が高く、CFRPの特性を引き出しやすいのが「オートクレーブ(Autoclave)成形法」です。この製法では、具体的に次のような流れで成形を行います。
- 型を設計・製作し、成形後のCFRPを取り外しやすいよう離型剤を塗る
- 繊維に樹脂を含ませたプリプレグをカットする
- プリプレグを型に貼り付け、積み重ねる
- 空気を通さないシート(バッグフィルム)で覆う
- プリプレグの層間やシートと型の間に含まれる空気を真空吸引する
- 真空吸引を維持しながら、オートクレーブ(圧力容器)内で加圧・加熱する
- 型から外し、必要に応じて仕上げと後加工を行う
オートクレーブ成形では、オートクレーブ内で成形品全体の温度が均一に上がるよう制御しながら加熱を行います。加熱・加圧と真空吸引で成形品内の空洞をできる限り取り除くことから、強度の高い成形品が得られる点は、形状自由度の高さと並ぶ大きなメリットです。炭素繊維の種類や形状によって異なりますが、一般におよそ4-10時間の成形時間がかかります。
この特性を活かし、航空機の補助翼やジェットエンジン逆噴射装置(カスケード)など、非常に高い堅牢性が求められる部品の成形にもオートクレーブ成形法が採用されています。
日機装のCFRP加工における強み
1980年に炭素繊維の製造技術研究をスタートし、1983年に世界に先駆けて航空機部品「カスケード」のCFRP化を実現した日機装。独自の設計・製造ノウハウにもとづく質の高いCFRP加工が可能です。ここでは、当社のCFRP加工における強みをご紹介します。
複雑な形状の部品製造が可能
日機装ではCFRPの成形加工にオートクレーブ成形法を採用し、40年にわたり多種多様な部品の設計・製造ノウハウを積み重ねてきました。現在は航空機のジェットエンジンや主翼周辺で用いられる、複雑な形状を持つ部品を多数提供しており、お客様から軽量・高強度な製品性能や品質を高く評価いただいています。
ジェットエンジン・ナセル部品
- ブロッカードア
- トルクボックス
- カスケード
- ファンケースライナー など
主翼周辺部品
- シャークレット
- Jパネル など
高度な品質検査
複合材料は一般に金属に比べて強度や形状精度のばらつきが大きいため、設計・製造だけでなく検査についても精度の高い技術が求められます。
日機装では、非常に高い構造健全性が求められる航空宇宙領域へ部品を提供するにあたり、独自の解析・試験評価手法をもとに高度な品質検査を実施しています。
- 原材料の受入検査(樹脂含有率、繊維体積率、比重、強度など)
- 工程管理検査(テストパネルによる製造工程の健全性確認)
- 製品検査(寸法検査、外観検査、重量測定など)
- 非破壊検査(超音波探傷、X線探傷、タッピング検査など)
- 性能試験(クーポン試験、静荷重試験、疲労試験、振動試験、環境試験など)
eVTOLや人工衛星も手掛ける日機装
つぎに日機装が手がける、航空宇宙事業の主な実績をご紹介します。
カスケード
一般に、航空機のカスケードのような複雑な形状を一体成形で実現することは難しいとされていますが、日機装では1980年から製造技術の研究と製造プロセスの構築を開始。1983年には世界で初めてカスケードのCFRP化に成功しました。
以来40年にわたる供給実績と技術力、品質・納期への取り組みが評価され、2大航空機メーカーの主要機種から各国のリージョナルジェットまで、あらゆる機種で採用されるように。現在は、カスケードの世界シェア95%以上を占めるに至っています。
eVTOL
Joby Aviation社による電動の垂直離着陸機「eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing)」は、時速320kmの速さで乗客を運べる新たなモビリティで、2024年商用飛行開始を目標に開発が進められています。
日機装は、このeVTOLの構成部品を供給するサプライヤーに選出され、製造しやすい設計と高い価格競争力の実現を目指した設計・開発をJoby Aviation社と共同で行っています。
人工衛星
日機装では航空機だけでなく、人工衛星用のCFRPパイプやサンドイッチパネルなどの製造も行っています。大きな温度変化や高真空という厳しい宇宙環境での使用にも耐えうる材料を用い、先進設備と高度な品質管理体制でお客様の高い品質要求に応えます。
まとめ
プラスチックに強化材として炭素繊維を加えたCFRPには、力学特性や形状自由度、生産性などがそれぞれ異なる、多様な成形加工方法があります。
日機装では、中でも形状自由度が高く強度の高い成形品が得られる「オートクレーブ成形法」を採用し、40年にわたり複雑形状かつ高品質の部品設計・製造を行ってきました。CFRP素材の活用を検討されている企業様は、ぜひ日機装にご相談ください。
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