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2023/11/15

【国内】水素社会への挑戦|水素サプライチェーン構築に向けた推進事例

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【国内】水素社会への挑戦|水素サプライチェーン構築に向けた推進事例

目次

脱炭素社会の実現に向けて注目が高まる、エネルギーとしての水素。その利活用を進めるためには、利用シーンだけでなく製造や貯蔵・輸送などのシーンにまで目を向け、技術の開発や実証を進めていく必要があります。

今回は、水素の製造から利用までの一連のプロセス=水素サプライチェーンの構築に向けた取り組みについて、国内での事例にフォーカスして紹介します。

水素サプライチェーンとは?

水素製造施設のイメージ


脱炭素化に向けて水素をエネルギー源として普及させるためには、大規模な需要に対する安定供給、供給設備の大型化による供給コストの低減が求められます。

そこで進められているのが、水素を製造・輸送・貯蔵・利用する一連のプロセス=水素サプライチェーンの構築です。それぞれの工程に多様な選択肢があり、必要な技術の開発や実証、インフラとしての定着が目指されています。

  • 製造:再生可能エネルギー由来の電力を使って水を電気分解する方法、化石燃料やバイオガス、廃プラスチックから水素を取り出す(改質)方法などがある。生成方法によって供給コストや環境負荷が異なる。
  • 輸送・貯蔵:配管を使って気体の状態で運ぶ方法、圧縮してローリーで運ぶ方法、-253℃まで冷却し、液体の状態にしたうえでタンカーで輸送、極低温液体タンクに貯蔵する方法、液化水素よりも扱いやすいアンモニアやメチルシクロヘキサン(MCH)に変換し、輸送・貯蔵する方法、金属に取り込んで輸送・貯蔵する方法などがある。
  • 利用:自動車やフォークリフトなどの動力、家庭用・産業用の電力や熱の供給源、また水素発電の燃料などとして利用される。

水素サプライチェーン構築に向けた国内の取り組み

日本国内においては、各地域がその土地の特色や資源を活かしながら水素サプライチェーンの構築に向けた実証に取り組んでいます。ここでは、「グローバル型・地産地消型・地域連携型」の3つに分けて、実証事例の概要を紹介します。

グローバル型サプライチェーン

水素運搬船のイメージ


将来的に安価な水素が大量製造されると見込まれる海外に目を向けた「グローバル型サプライチェーン」の取り組み事例を紹介します。

【神奈川県・川崎市】世界初、水素の国際間輸送に成功

川崎臨海地区は、鉄鋼・石油化学工場など化学産業が集積する日本有数のコンビナート。市内はもちろん、首都圏のエネルギー供給拠点として生活や産業を支えるエリアです。

政令指定都市最大の温室効果ガスを排出する川崎市では、かねてより脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進められてきました。とりわけ、水素の利活用が見込まれる川崎臨海部に水素関連企業を集約。同地区の水素需要量は国内の約10分の1を占めるほどで、日本最大級の水素の供給・需要ネットワークが構築されています。国内最大級の水素配管網から、水素が日常的に生産活動に利用されており、水素エネルギーの先駆者として、多角的な展開を進めています。

次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)は、千代田化工建設株式会社の開発した「化学反応を使って水素を液体の状態で貯蔵・運搬し、気体の状態で供給する」という水素技術を活かし、海外で製造した水素を川崎市へ輸送する実証事業を実施しました。

【国際間輸送の流れ】

  1. ブルネイ・ダルサラーム国の水素化プラントで天然ガスから水素を製造
  2. トルエンに反応させてメチルシクロヘキサン(MCH)という液体に転換
  3. 液体の状態で川崎市臨海部のプラントへ輸送
  4. 川崎市の脱水素プラントでMCHをトルエンと水素に分解
  5. 水素を気体に戻し川崎市発電所のガスタービンに供給

これは、国際間水素大量輸送、供給実証(10カ月間の運用で100トン超)を、安全かつ安定的に達成した世界初の事例です。2050年カーボンニュートラルに向けた日本発の環境技術として、より一層のスケールアップを含め期待値が高まっています。

川崎市では、2015年に策定された「川崎水素戦略」をさらに強化・発展させるため、2022年に「カーボンニュートラルコンビナート構想」を発表しました。同構想では、国際間水素サプライチェーン構築実証の他にも、多様な環境対策を推進。例えば、JR南武線武蔵溝ノ口駅を「エコステ」モデル駅として整備し、水素を活用した自立型エネルギー供給システムを導入しました。こうした企業等と連携したプロジェクトの実施により、水素の活用を推進しています。
(参照:川崎市「川崎水素戦略」2022.06)

【兵庫県・神戸市】豪州との液化水素輸送成功で新たな可能性

地球温暖化防止の主要戦略として「水素スマートシティ神戸構想」を掲げる神戸市。水素バスの運行や、水素を充填する水素ステーションの増設など、脱炭素化に向けた取り組みを行っています。その一環として、オーストラリアから日本へ液化した水素を輸送する実証事業を実施。水素サプライチェーンの構築を目指しています。

技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)が主導するこの実証事業の特徴は、オーストラリア・ビクトリア州の炭田で採掘された未利用の褐炭を用いて水素を製造することです。

水素をマイナス253℃まで冷却し、液体にしたうえで、川崎重工業株式会社が開発した液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」に乗せて日本へ長距離輸送。2022年2月には日豪間航行を果たしました。こうして運ばれてきた水素は、神戸港に建設された液化水素貯蔵・荷役基地「Hy touch神戸」で保管されています。

さらに、輸送された水素は、HySTRA、川崎重工業株式会社、株式会社大林組、関西電力株式会社、神戸市の5者による神戸市ポートアイランドの水素発電実証施設「水素CGS実証プラント」の発電実証にて使用。海外から輸送した水素が国内の発電燃料として使用されたことで、新たなエネルギー供給の可能性が拓かれました。
(参照:神戸市  水素の活用(水素スマートシティ神戸構想))

地産地消型サプライチェーン

牛舎で餌を食べる牛


地域の再生可能エネルギーを使って水素を作り、生産から消費までの流れを一定の地域で完結させる「地産地消型サプライチェーン」は、災害に強い社会をつくるとともに、新たな雇用機会も生みだし、地域全体の活性化につながっています。ここでは、地域の未来を築く「地産地消型のサプライチェーン」の事例を紹介します。

【福島県・浪江町】水素エネルギーで切り開く復興の道

原発事故からの復興に取り組む福島県では、環境と共生する新しい社会のモデルケースとして水素を活用した街づくりを始めています。原子力エネルギーの経験から得た教訓を水素エネルギーへ転換。「福島新エネ社会構想」を推進し、再生可能エネルギーと水素社会の実現に向けた取り組みを加速しています。

中でも浪江町は、町を水素の実証フィールドとして活用する「なみえ水素タウン構想」を展開し、地域産業やライフスタイルに水素エネルギーを融合させた新たな価値を生み出しています。福島県の広大な土地や風力、浪江町のコミュニティ力と水素ビジネスが融合し、新しい可能性が拓かれているのです。

2022年には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主体となって建設・整備を進めていた水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field:FH2R)」が運用を開始。太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用して水素を製造し、持続可能なエネルギーシステムの構築を目指しています。

さらに、同年に稼働した「福島水素充填技術研究センター」では、FH2Rで製造した水素を利用し、短時間で高圧水素を安全に充填する技術や、冷却システムを最適化する仕組みなど、水素エネルギーの利用拡大に向けた研究に取り組んでいます。

商業から福祉まで多面的な観点から、水素技術を高める福島県・浪江町。町を水素実証フィールドとして活用することで「つくる」「はこぶ」「つかう」の各フェーズにおける課題の整理・解決を実現しています。PDCAサイクルの着実な推進によって、水素社会とゼロカーボンシティの実現へと近づいています。
(参照:浪江町「水素タウン構想について」2021. 07)

【福井県・敦賀市】国内初、原子力由来のクリーンな水素

半世紀以上前から原子力発電所が立地する福井県・敦賀市。敦賀半島の先端にある日本原子力発電敦賀1号機は日本最初の軽水炉で、原子力産業のパイオニア的存在となっていました。現在は長きに渡る役割を終え、廃炉作業中。地域産業の構造転換を受けて、敦賀市は新たな産業として水素エネルギーの活用に動いています。

こうした経緯から始まったのが、原子力を活用した水素の製造事業です。近隣にある関西電力の原子力発電所で製造した電気を利用して水素を製造し、「水素ステーション敦賀」で燃料電池自動車の燃料として水素を供給します。発電時に二酸化炭素を排出しない原子力由来の水素製造は国内初の試みです。

関西電力とタッグを組んだこの取り組みは、原子力による電力の供給から水素の製造、利用までの一連の流れを可視化する実証実験からスタートしました。
(参照:敦賀市「敦賀市のVPP事業、水素などカーボンニュートラルに向けた取り組みについて」)

【北海道・鹿追町】環境省から評価された、水素の地域循環モデル

十勝平野の北西に位置する北海道・鹿追町は、国内有数の酪農地帯です。酪農が盛んであるがゆえ、長年ふん尿の臭いや管理の問題に悩まされてきました。そこで開始したのは、家畜ふん尿由来の水素の製造と販売です。再生可能エネルギーの地産地消に向けた一歩を踏み出しました。

そして、水素製造供給施設として作られたのが「しかおい水素ファーム」。家畜のふん尿の処理施設である「鹿追町環境保全センター」からバイオガスの提供を受け、水素を作る役割を担っています。

【家畜ふん尿から水素をつくる流れ】

  1. 家畜糞尿を発酵し、バイオガスを発生
  2. バイオガスから二酸化炭素を取り除き、メタンガスを抽出
  3. メタンガスと水蒸気を反応させて、水素と一酸化炭素を発生
  4. 一酸化炭素と水蒸気を反応させて、水素を発生

製造された水素は、隣接する水素ステーションで燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトの燃料となるほか、供給高圧容器に入れて貯蔵・運搬も可能です。

家畜ふん尿を利用した水素の製造は、国内で初めての事例。この取り組みが評価され、鹿追町は環境省が公表した「第1回脱炭素先行地域」に選ばれました。鹿追町の取り組みは、地域資源を有効に活用しながら新しいエネルギー供給の道を確立した好事例といえるでしょう。
(参照:エア・ウォーター株式会社「国内唯一、カーボンニュートラルな家畜ふん尿由来の水素サプライ事業を北海道鹿追町で開始」2022. 3)

地域連携型サプライチェーン

太陽光発電施設のソーラーパネル


「地域連携型サプライチェーン」は、ある地域で製造された水素を、近隣地域や別のエリアで消費・活用する取り組みです。ここでは、水素を使って電力の生産地と消費地間の需給調整を行い、電気を無駄なく有効活用する事例を紹介します。

【山梨県×東京都】電力の生産地と消費地をつなぐ媒介として活用

日照時間が長い山梨県では、従来より太陽光発電に力をいれてきました。しかし、余剰となった電気の使い道がなく、無駄になってしまうことも。そこで着目したのが、余剰電力で水素を製造し、新しいエネルギーとして転用することでした。

山梨県の水素活用は、甲府市米倉山地区を中心に飛躍的に躍進。東レ株式会社が開発した「固体高分子(PEM)形水電解装置」により水素を製造するシステム「やまなしモデルP2Gシステム」の設置や、水素等の製造や普及を促進する「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」の設立など、期待が高まっています。

一方、東京都は多くの電力消費をする大都市。脱炭素社会を目指すため「東京水素ビジョン」を策定し、省エネやグリーン水素の利用を模索してきました。そして、2022年10月、山梨県と東京都は「グリーン水素の活用促進に関する基本合意書」を締結。水素の利用・技術開発・普及啓発における連携に合意しました。

山梨県産グリーン水素を扱う都有施設の第1号として実装されたのは江東区・国際展示場。敷地内に燃料電池を設置し、施設内の電気の一部としての供給が始まっています。電力の地域間融通の媒介として、水素は大きな可能性を秘めているのです。
(参照:山梨県「山梨県の取り組み 水素・燃料電池関連産業の推進」、株式会社東京ビッグサイト「山梨県産グリーン水素の利用開始について」2023.5)

まとめ

水素貯留タンクとソーラーパネル、風車のイメージ


水素社会の実現を目指すためには、今回取り上げたような地域の特性を活かした水素サプライチェーンの構築が不可欠です。地元の資源や特産物を最大限活用すること、国内の都市や海外と連携し水素の普及を進めることにより、脱炭素社会の実現に繋がるでしょう。

効率的な水素製造の技術やインフラはまだ成長過程。水素の潜在能力を最大限に活かすサプライチェーンの確立に向け、今後の動向が注目されます。


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