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2023/08/16

コロナ後の航空機業界・サプライチェーンの課題は?【パリ航空ショー現地レポ#2】

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コロナ後の航空機業界・サプライチェーンの課題は?【パリ航空ショー現地レポ#2】

目次

フランス・パリで行われた世界最大級の航空機の展示会「パリ航空ショー」。航空需要がコロナ前の水準に戻り、久しぶりに活況を見せた今年のエアショーの模様を、現地を訪れた日機装の齋藤賢治・航空宇宙事業本部長が独自の視点で読み解くシリーズの後編です。

今回のテーマは、コロナ禍が明けて、再浮上を目指す航空機業界。大手航空機メーカーの大型受注が市場を驚かせたものの、コロナ禍で部品メーカーの倒産などが相次ぎ、メーカー担当者は「うまく部品が入らない」と製造への不安をもらします。復活に向けて正念場を迎えた航空機業界の現状と課題は。(取材は2023年7月に実施しました)

齋藤 賢治:航空宇宙事業本部長。金融機関で欧米ビジネスを手掛けた後 、2020年に当社入社。2022年から現職。主力製品であるカスケードを伸ばしながら、当社の強みであるCFRPを生かして、eVTOLなど新規ビジネスの開拓に取り組んでいる。(※所属・肩書は取材時点のものです)

コロナ禍でサプライチェーンが崩壊

——今年のパリ航空ショーではエアバスが800機超、ボーイングが300機超の受注を受けて、航空需要の復活を印象付けました。会場の様子はいかがでしたか。

齋藤:昨年、ファンボローで開催されたエアショーでは、まだマスクをしている人がいて、航空会社から航空機メーカーへの発注もおっかなびっくりでした。今回は一転して、フルスロットルの盛況ぶりでしたね。

——ところが、航空機メーカーからは不安の声も聞こえたということですが、背景には何があるのでしょうか。

齋藤:サプライチェーン(部品供給網)の崩壊です。コロナによる移動の自粛で、航空需要が激減。そのため、欧米を中心に航空機部品メーカーはここ数年仕事が減り、皆さん倒産しているか、廃業しているか、従業員を解雇しています。

ですから、いざ航空需要が復活し、エアバスやボーイングなど航空機メーカーに数百機単位の仮受注が入ってきても、後ろを見たら誰もいない。サプライチェーンが崩れてしまったのです。 

巨大で複雑なピラミッド構造

——航空業界のサプライチェーンはどんな特徴がありますか。

齋藤:他の産業にはないほど巨大で複雑です。例えば、大型ジェット機1台あたりの部品点数は約300万点で、自動車の約3万点に比べて100倍ほど多いです。このように単純に部品の数が多いこともありますが、さらに部品を製造する企業が世界各地に散らばっています。

ボーイングやエアバスなどの航空機メーカーを「OEM:Original Equipment Manufacturer」と呼び、こうしたメーカーに直接納入する部品メーカーを「ティア1」(1次下請け)と呼びます。さらにティア1の発注に沿って、部品をティア1に納入する部品メーカーが「ティア2」(2次下請け)で、こうしたピラミッド構造が何層にもなっています。エンジン逆噴射装置の一部である「カスケード」を製造する日機装は、ティア2の立ち位置です。ただ、国内のティア1にあたる重工メーカーとの取引よりも、海外の航空機メーカーやティア1との取引の方が多いです。日機装は日本の航空産業の中ではかなり異端児なのです。

世界初の「CFRP製カスケード」を開発 | 研究・技術開発の軌跡 | 研究・技術情報 | 日機装株式会社 (nikkiso.co.jp)

今回の航空ショーでは、航空機メーカーの不安を象徴するシーンがありました。われわれ日機装が、エアバスとボーイングのブースに招かれたのです。ティア2の日機装がティア1を飛ばして航空機メーカーのブースに招かれることは異例です。例年のエアショーでは、航空機メーカーはお客さんである航空会社を接待します。しかし今回は、航空機メーカーもサプライチェーンが苦しいのは分かっていて、すごく気を遣っていました。売れることより、作れることの方が大事になっている表れです。

サプライチェーン再建は半年か一年後

——サプライチェーンはいつ復活するのでしょうか。

齋藤:これまでサプライチェーンの中心地だった欧米で、すぐに復活できるかというと、難しい状況です。欧米はコロナ禍からの回復過程でインフレ状態になり、賃金が上がっています。今まで航空機部品を作っていた企業が、人を雇いなおして一から訓練をするとなると、とてつもなく時間が掛かります。値段もペイしないでしょう。 

そうすると、いま世界で産業基盤があって、ある程度、製造能力があるところというと東南アジアです。特に注目が集まっているのは、ベトナムとマレーシアです。 

——東南アジアへのサプライチェーンの移行はスムーズにいっていますか。

齋藤:航空機部品は接着剤に至るまですべて認証が必要です。誰もが「今日から作ります」というわけにはいきません。認証を得るためには、さまざまな試験を受けなくてはいけないので、半年や一年かかるのは当たり前です。ですから、サプライチェーンを欧米から東南アジアに移そうとしてもすぐには無理です。

——人材流出も深刻ですね。

齋藤:解雇された人たちはほとんどが熟練の従業員ですが、解雇された苦い思いがある航空機業界になかなか戻ってきてはくれません。そうすると、残った欧米の工場も思い通りの品質で製品を作ることができません。世界中を見ても、飛行機の部品を作れるメーカーが全然ないのです。新しいサプライチェーンが立ち上がるのに、もう半年か一年ぐらいは掛かるでしょう。

——存続している部品メーカーも苦境に立たされています。

齋藤:それぞれの部品メーカーは在庫の管理にも四苦八苦しています。一つの航空機を作るのに、部品メーカーは歩調を合わせて部品を生産する必要がありますが、サプライチェーンが崩れている現状では足並みがそろっていません。そうすると、部品づくりが先行しているメーカーは在庫を余らせてしまいます。

サバイバーとして工場をフル活用

——サプライチェーンが大崩れとなっているいま、日機装の供給体制はいかがですか。

齋藤:日機装は航空機部品専業ではないことが功を奏して、サプライヤーの中のサバイバーです。特に日機装が作っている炭素繊維部品は世界でも手掛ける企業が少なく、注文が殺到しています。世界が注目する東南アジアのベトナムに2つ工場があり、余力もあります。経験値も知名度もあります。サプライヤーとしての注目度は高いと感じています。 

日機装のベトナム第二工場

生産・開発体制 | 航空宇宙 | 製品・サービス | 日機装株式会社 (nikkiso.co.jp)

——航空機部品事業を今後どのように展開したいですか

齋藤:収益性の高い仕事を選びながら、既存の工場をフル活用して、サプライチェーンを支えていきます。また、私たち自身も国内外のパートナー企業との関係を強化し、製品づくりの強靭なサプライチェーンを構築します。ティア1やOEMから信頼できる取引先と考えてもらえるよう力を入れていきたいと思っています。


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