いのちの現場

2025/01/15

患者数が増えるアジアの透析医療を支える、日機装の技術力とサポート力

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患者数が増えるアジアの透析医療を支える、日機装の技術力とサポート力

目次

近年、透析患者数が増えているアジアでも、日機装の透析装置の導入が進んでいます。その裏側には、長年続けてきた現場のたゆまぬ努力と、お客さまや現地代理店と培ってきた信頼関係がありました。

日本で透析装置のパイオニアとして透析医療を支えてきた日機装が、世界中で透析医療のニーズに応えるための取り組みをご紹介するシリーズ「世界中の患者さまのために」。

今回、海外のお客さまに対する営業活動やサポートを長く経験してきた日機装メディカル事業本部の関口 誠さんと佐藤 直樹さん、タイ販売代理店副社長のソンポン・カプタポンさんにインタビュー。日機装のアジア地域での取り組みと、現地での評価について話を聞きました。

関口 誠:2007年より当時の日機装と米サンダイン社との合弁会社に勤めた後、2012年に日機装メディカル事業本部に入社。以来、国際部にて海外のお客さまに対する営業活動を担う。


佐藤 直樹:2001年に設計部門のエンジニアとして入社し、その後国際部・品質保証部において海外のお客さまを担当。現在はカスタマーサービス部門において、海外子会社や代理店スタッフに向けたトレーニングや技術的な問い合わせへの対応などを担う。


ソンポン・カプタポン(Songphol kaptaphol):Nikkiso Medical (Thailand) Co., Ltd.(NMT)副社長。1999年のNMT創設時より、セールスマネージャーとして透析装置販売に携わり、タイにおける日機装の透析装置の普及に貢献。現在は副社長としてNMT全体のマネジメント業務や日機装メディカル事業本部との連携などを担う。

(※所属・肩書は取材時点のものです)

50余年かけて培った技術と経験をもって、産業・社会の大きな発展が見込まれるアジアへ


――今回は、アジア諸国における日機装の事業展開について詳しくお話をお聞きしていきます。まずは日機装がアジアへ進出した経緯から教えていただけますか。

関口:当社は透析装置のパイオニアとして、50年以上にわたって、医療や技術の水準が世界的に高い日本において開発を続けてきました。国内で培われた経験や技術力、ノウハウをもって、まずはヨーロッパへ、次いで最も患者数が増えると考えられる中国へ進出。

こうした流れを汲み、次にどのエリアに日機装の透析装置を届けるべきかと考え着目したのが、人口増加が著しい、平均年齢も非常に若く勢いのあるアジアです。産業や社会の大きな発展が見込まれるこの地域で、安全で持続可能な医療の実現を支えるべく事業展開をスタートしました。

――アジア諸国において、透析治療を取り巻く状況はどのようになっているのでしょうか。

関口:アジア全域で糖尿病患者の数は大幅に増加しており、これから透析治療の需要が拡大する可能性が高いと言えます。

しかし、「透析治療にどれだけの予算が割り当てられるか」「それによってどれだけ治療の質を高められるか」はその国の財政状況に依存し、コストの観点から医療現場のニーズを実現できないといったジレンマを抱える国もあります。

佐藤:日本のような国民皆保険制度が確立されておらず、さらに人々の貧富の差が大きな地域では、「必要最低限の回数の透析治療も受けられない」という方がいらっしゃる厳しい状況を目にすることもありました。国のサポートを得て、ほぼすべての患者さまが同じレベルの治療を受けられる日本とは、状況が大きく異なりますね。

関口:また、技術的な面では、医療機器を扱う専門職者の存在も大きな違いの一つでしょう。

日本では、透析治療を行う施設には国家資格を持つ「臨床工学技士」が在籍して装置の管理やメンテナンスを行っており、こうした体制があるからこそ管理、メンテナンスに高い技術力が要求されるセントラル方式(※)による透析液の効率的な供給が実現できます。

一方、アジア諸国で言う「技士」は国によって意味が異なり、装置の準備や軽微な修理だけにとどまるケースもあります。そのため、「日本のようにセントラル方式を導入したい」という現地のお客さまのニーズにお応えできない状況です。

(※セントラル方式:透析液を機械室の透析液調整装置でまとめて生成し、治療室にある複数の患者さまの透析装置に分配供給する方法のこと)

販売代理店との連携で、タイで一番選ばれるメーカーに

ここ数年で導入数が伸びているのが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一角を占めるタイです。日機装グループは20年以上前からこの地で事業を展開しており、現在では、新規装置販売台数において、同国のシェア1位を競っています。ここからは、現地で販売代理店として製品やサービスをお客さまへと届けているNikkiso Medical (Thailand) Co., Ltd.(NMT)のソンポン・カプタポン(Songphol kaptaphol)副社長に加わっていただき、タイで日機装製品が評価を受けている理由などについて聞きます。

――NMTについて教えてください。

ソンポン:NMTはバンコクに本社を置き、日機装の透析装置や消耗品などを輸入販売しているほか、メンテナンスサービスも行っています。設立は1999年で、現在の従業員数は89人です。タイ全土にサービスエンジニアを配置し、地方においても故障などに迅速に対応できるよう、サービス体制を確立しています。


――タイで透析装置の販売が拡大しているのは、どのような背景があるのでしょうか。

ソンポン: 様々な国の文化や生活習慣が取り入れられて食生活などが変化した結果、タイでは糖尿病や高血圧などを患っている透析予備軍が急増し、その数は1800万人に上ると言われています。彼らは5段階ある慢性腎臓病のステージ(重症度合い)が進行するにつれて、透析治療を受け始めるようになります。その結果、タイでは近年2万人/年ずつ透析患者が増えている状況です。今後も患者数は増えていくでしょう。

関口:国が治療方針を転換したことも、透析患者が増えた大きな要因の一つです。これまでの国の基本方針では、患者さま自身の腹膜を透析膜として利用する「腹膜透析」を、治療方法として最優先にしていました。この「腹膜透析ファースト」の方針が撤廃され、人工腎臓(ダイアライザー)を透析膜とする「血液透析」を初めから選択できるようになったのです。これにより、以前よりも血液透析を受ける方が増えました。

――日機装の透析装置が、タイで評価を受けているのはなぜですか。

ソンポン:日機装の透析装置はタイでは高額な印象を持たれているのですが、メンテナンスコストが抑えられるように設計されているため、長い目で見れば安く済みます。例えば、透析液を循環させる複式ポンプは日機装独自の機構なのですが、故障しても原因となっている部品だけの最小限の交換で対応できる仕組みとなっています。このため、ポンプ全体を交換しなくてはいけない他社製品と比べて、コストを抑えられます。このように効率性を重視したデザインは「機能美」とも言え、高く評価されていると感じます。

以前より同じお客さまから繰り返し日機装の装置を買っていただくことが増えており、まさにタイの医療従事者の皆さんから評価を頂いている、何よりの証だと感じています。

――モニタリングシステムについては、どのような評価を受けていますか。

ソンポン:日機装の透析装置の特長であるモニタリングシステムは、タイでも評価を受けています。例えば、血液の近くを通る透析液は、体温に近い必要があるんです。確かに、透析液の温度を設定する機能は他社の製品にもあります。しかし日機装は、実際に設定値通りになっているかを確認する温度計も備えています。このように、「基本的で、かつ重要な部分のモニタリングシステムを押さえている」「やるべきことを、しっかりやっている」と、お客さまには思ってもらえているのではないでしょうか。

――サービス面で、独自の取り組みはありますか。

ソンポン:独自の取り組みとしてまず挙げられるのは、装置を使用しているお客さまとコミュニケーションを取るための工夫です。それぞれの装置の裏側にはQRコードが貼ってあり、お客さまは故障や不具合といった困り事があるときはQRコードを読み取ってメッセージの送信が可能です。我々は、お客さまからのメッセージを受信後、すぐに対応できるよう体制を整えています。

――日機装とNMTとの連携について、教えてください。

関口:例えば、現地で装置の故障が発生したり、急に製品を納入しなくてはいけなくなったりした時には、日本の工場や関係部署との調整役となって対応します。

このほか、NMTがやりたいことを実現できるようにサポートしています。NMTからは密に情報提供してもらっているので、サポートもしやすいです。お互い信頼してサポートしていますね。コロナ禍は顔を合わせる機会が減ってしましましたが、オンラインを活用するきっかけとなり、現在では現地訪問、メールや電話に加えオンラインを使って更に密に連絡を取るようになりました。日機装・関口氏とNMT・ソプタン氏

――佐藤さん、関口さんは、タイのお客さまから支持を集めている要因を、どのように捉えていますか?

佐藤:競合メーカーの製品が主流となっている地域もまだ多くあり、そういった地域では日機装が持ち込む新たな技術や機能を受け入れていただくことは容易ではありません。

その中で営業担当者が、開発のバックグラウンドをはじめ商品の良さや強みをコツコツとお伝えし続けてきた結果、徐々にご理解をいただけるようになってきたということなのかなと。

関口:そうですね。デモンストレーションで実際に装置を触ってもらいながら他社製品との細かな違いをお伝えするなど、まずは装置の良さを知ってもらうための営業活動を続けてきたことが、ご理解に繋がったのだと思います。

また、営業やサポートを担う現地代理店のメンバーに対し、当社と他社の装置の違いを説明したり、ノウハウを共有したりといった教育活動を継続して行ってきた成果として、皆さんの知識が大幅に向上したことも大きなポイントだと捉えています。


――今後、日機装に期待することはありますか。

ソンポン:まずは、いまの緊密な関係性をしっかり維持していくことでしょうか。機能やオプションについては、今後も優れたものを開発してくれることは、これまでの経験から分かっていますから、期待して待ちたいです。

――これからのNMTの展望について教えてください。

ソンポン:近年、タイに進出してきている中国製品は、とても安価です。確かに価格面では脅威となり得るのですが、私たちは「価格だけでなく、品質が重要である」と、透析治療に関わる医療従事者や研究者らと意思疎通を図っています。このような理解を持ち続けてもらえるよう、これからも努力していきます。

言葉を尽くして考え方の違いを乗り越え、“より良い治療”を届ける

――日機装の製品を導入してもらううえで課題となる点、難しさを感じる点などがあれば教えてください。

関口:文化や価値観の違いをどう乗り越えるかという課題には、特にコミュニケーションが重要と感じます。

例えばタイでは、「早く業務を終わらせるために、治療後の消毒・洗浄作業の時間を1分でも短くしてほしい」「治療中に問題があることを知らせる警報が頻繁に鳴るのは好ましくない」といったお声をいただくことがあります。時間や安全、リスクに対する考え方が、装置の開発を担う日本人と異なると感じる場面です。

しかしこれらは装置の長所でもあります。消毒時間が少し長いのは、万全な消毒を行うためであり、少しの異常でも見逃さずに警報が鳴るようになっているのは安全で効果のある治療を提供するためですから。

インタビューに応える日機装・関口氏

そうした「より良い治療をご提供するために」という意思が込められた “日本基準” の透析装置の意味をしっかりとお伝えすることを常に意識しており、それを理解いただいていることがアジアにおける成長に繋がっているのではないかと考えています。

より多くのアジアの患者さまの透析治療に貢献するために、さらなる事業展開を目指す

――日機装として、アジアにおける事業展開を今後どのように進めていこうと考えていますか?

関口:私たちはアジアのより多くの国で日機装の透析装置を使っていただくことで、今後増えていく透析患者さまの治療に貢献していきたいと考えています。そのためには、現在すでに販売を開始している国でさらなる成長を図ること、新たな国や地域を開拓していくことなど、やるべきことが様々あります。

すでに販売を始めたアジアの国々の中には、長期的に見てタイのような透析医療の発展が見込める国がたくさんあると考えています。そうした国に対してはタイと同様、私たちのノウハウや装置の安全性、新たな機能などについてしっかりとご説明をしたり、適した機能やオプションをご提案したりと、その国の成長に合わせた営業活動を続けていきたいところです。

日機装・アジア代理店会議の様子アジア代理店会議の様子――ありがとうございます。最後に、お二人が今後チャレンジしたいことをお聞かせください。

関口:タイにおいてこれまで20年以上にわたって取り組んできたことが実を結び、市場が成熟するとともに、NMTの皆さんの取り組みや対応もより心強いものになってきました。

今後も、より多くのタイの患者さまに日機装の透析装置や消耗品を使用していただけることを目指すのはもちろんですが、また一方で、他の国でもタイと同様に現地の皆さん主導で動けるような組織や代理店をつくり、様々な国への事業展開を進めていければと思います。

佐藤:カスタマーサービス部門として、お客さまのご要望に合わせてトレーニングスタイルを変化させていくことです。

これまでは比較的小規模なトレーニングをご提供してきましたが、透析治療に関わるスタッフの数が増えているタイや諸外国では、今まで通りのやり方ではご要望に応えきれません。今後もますます増えていくと考えられるご要望に応えられるよう、より効率良く理解を深められるトレーニングへアップデートしていきたいと考えています。