いのちの現場
2022/12/05
中国の血液透析市場の“いま”をレポート|保険制度から今後の動向まで
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目次
透析装置のパイオニアとして、国内トップシェアを誇る日機装。日本だけでなく、中国や東南アジア、欧米諸国などグローバルに事業を展開しています。
その中でも、血液透析市場が急成長している中国では、日機装のグループ会社である威高日機装(威海)透析機器有限公司が、血液透析装置の製造販売およびメンテナンス事業を行なっています。
そこで今回は、威高日機装(威海)透析機器有限公司総経理の金 康石氏にインタビュー。中国の血液透析市場の動向や威高日機装の取り組みについて話を聞きました。
金 康石:韓国釜山出身、1998年日機装入社。日機装メディカルコリア社長、上海日機装貿易有限公司総経理を経て、2022年4月より威高日機装(威海)透析機器有限公司 総経理に。 ※所属・肩書は取材時点のものです |
急速に拡大する中国の透析市場
ーーまずはじめに世界の血液透析市場についてお伺いできたらと思います。血液透析患者数については、近年どんな変化があるのでしょうか。
世界的に見て血液透析の患者数は、年間3%ほどの割合で増加しています。
2000年ごろまでは、患者数の多くがアメリカやヨーロッパ、日本に集中していましたが、近年そのほかの地域の割合も増加してきました。その中でも、中国の透析患者数の増加率が大きいのが特徴だといえます。
ーー中国の血液透析の患者数はどのくらいの推移で増えているのでしょうか。
中国の透析患者数の伸び率としては、毎年10%くらいの数値で増加していますね。
直近の2021年のデータによると中国の透析患者数は88万人、中でも血液透析の患者数は約75万人となっています。ちなみに日本の血液透析の患者数は、2020年には約34万人のため、中国の方が2倍ほど多いことになります。
中国の透析市場が急成長している背景と課題
ーーそのように中国の透析市場が急成長している理由は、どのような点にあるのでしょうか。
一番大きな理由は「透析医療保険の普及」にあります。
中国では、2012年から透析医療が保険適用に変更となりました。それ以前の透析医療はすべて自費で経済的な負担が大きかったのですが、今では地域によって一回あたりの金額や月に受けられる回数は異なるものの、多くの人が透析医療を受けられるようになりました。
ーー中国の医療機関の構造は日本と異なるとお聞きしたのですが、どのような特徴や課題があるのでしょうか。
中国の医療機関は約33,000施設あるとされていますが、その中で透析治療ができるのは約6,300施設、このうち88%が公立病院です。日本の場合は民間のクリニックや病院で透析治療を受ける方が多いですが、中国は公立病院がほとんどです。また、中国の病院は、その規模や設備によって、一級、二級、三級に分けられています。(三級が最も階級が高い病院)
そういった背景から、透析患者さまが公立の大型総合病院にあたる三級病院に集中しています。また「看病難(診察を受けるのが難しいこと)」や「看病貴(診察費が高いこと)」が社会問題となっていることから、中国政府は三級病院の負担を軽減するために、二級、一級病院の設備を整え、治療環境を良くする取り組みを行っています。また、医療機器の国産化優遇政策によって、国産医療機器を育成し、診察費の低減を図ろうとしています。
透析治療に関しては、2016年に民間の透析クリニックを設置することが可能となった後も、法規制は徐々に緩和され、透析治療が受けられる医療機関の施設基準を緩和することで、民間の透析クリニックの開設を後押ししているのが最近の動きですね。
ーーそういった取り組みも受け、中国の透析市場は今後どのような変化があると予測されていますか。
2025年には全世界の透析患者数は490万人に上ると言われていますが、そのうち中国の透析患者数は134万人と、全世界の27%ほどの割合になることが考えられます。
これほど急激な患者数の増加は他の国では経験したことがないうえに、患者さまの高齢化や透析治療中に起こりやすい透析合併症など、医療現場は日本と同様に様々な課題を抱えています。医療スタッフの負担を少しでも減らし、より快適に透析治療を行うためのニーズは今まで以上に高まっていくでしょう。
中国・威高日機装の取り組み
ーーそのような中国の透析市場において、威高日機装はどのような事業を行っているのでしょうか。
威高日機装は、2010年に中国最大クラスの医療機器メーカーである威高集団との合弁会社として設立されました。血液透析装置の製造および販売、メンテナンス事業を行っており、2011年から中国産透析装置の生産・販売を開始しました。中国事業のパートナーである威高血液浄化は、透析治療に使われるダイアライザーや血液回路といった消耗品の生産・販売を行っているほか、自社グループで透析クリニックを全国展開していたりと、中国透析医療におけるトップブランドです。透析患者の増加に伴う需要拡大と、威高血液浄化の販売力もあり、日機装の透析装置の販売台数は市場成長率を上回る勢いで成長を続けており、現在中国国内での販売シェアは2位※となっています。
※威高日機装調べ
ーー中国のほか透析装置メーカーと異なる、威高日機装の透析装置の特徴を教えてください。
日機装は1969年に日本で初めて「人工腎臓装置の国産化」を実現させて以来、現場からのさまざまなご要望を取り入れながら、時代とともに進化を続けてきた会社です。
威高日機装が中国で販売する透析装置にも、看護師の作業時間や作業回数を減らすための、アシスト機能(D-FAS機能)が搭載されています。これも医療現場からの要望を取り入れ開発したものです。治療前の準備など、手間のかかる作業を機械が補助してくれるので、患者さまと向き合う時間が増えてよりきめ細かな看護ができる、といった嬉しい声もいただいています。
また、日機装の装置は壊れにくく、簡単な故障であれば現場でもすぐに対応できるといった、優れたメンテナンス性も高く評価されています。最近では、治療中の患者さまの状態をリアルタイムでモニタリングできる機能も好評です。
高品質な製品ときめ細かなメンテナンスサービスで、中国の透析市場を支えていく
ーー中国で透析装置を販売するにあたって、威高日機装が工夫されている点や努力されている点をお聞かせください。
現場のスタッフを支え、患者さまが安心して治療を受けられるような体制を整えるべく、中国全土で52ヶ所のメンテナンス拠点を設置し、素早く正確なアフターサービスができるように取り組んでいます。
今でも中国はゼロコロナ政策の影響を受けていて、色々な地域でロックダウンや隔離が続いているのですが、こうした状況の中、メンテナンスを行うスタッフは、透析治療が継続できるよう、医療現場のスタッフの皆さんと寝泊りしながら対応を続けています。
また、メンテナンスを行うスタッフだけでなく、製造現場のスタッフも含め全員が “私たちの製品は医療現場で患者さまの治療に使われる製品である” という意識を常に持っています。こうした取り組みのおかげか、各地域で発表される顧客満足度調査では、メンテナンス部門で毎年トップに入賞しています。
ーー最後に、威高日機装の今後の展望を教えてください。
現在威高日機装では、透析装置のさらなる国産化を進めています。日本同様に高品質な装置を多く生産することが、当面の課題となっています。中国政府の国産品優遇政策の他にも、国際情勢の変化や半導体、原材料不足など、我々を取り巻く環境は困難な状況が続きますが、このような外部環境の変化にも柔軟に対応し、日機装と連携しながらサプライチェーンを強化していきたいです。
今後も「中国の透析医療発展に貢献する」という合弁精神を忘れず、より多くの透析患者さまが安心・安全に透析治療を受けられるよう、高品質な製品ときめ細かなメンテナンスサービスを提供していきたいです。
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