いのちの現場

2022/07/01

安心安全確実な医療を目指して 〜医療従事者向け研究研修施設「M.ReT宮崎」~

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安心安全確実な医療を目指して 〜医療従事者向け研究研修施設「M.ReT宮崎」~

目次

患者さまにより安心安全な治療をお届けするために――国内透析装置シェア50%以上を誇る日機装では、装置の提供開始当初から「透析治療に携わる医療従事者向けの研修」を実施し、知識の提供とサポートに取り組んできました。

2021年7月には、研修の新拠点となる「M.ReT宮崎」をオープンし、より充実した研修の提供に向け力を注いでいます。

今回は、私たちが考える“装置開発を担うメーカーとして果たすべき役割”から、「M.ReT宮崎」で行われる研修内容、そしてこの取り組みを通じてめざすビジョンまで、「M.ReT宮崎」室長の伊藤 唯博氏に話を聞きました。

伊藤 唯博:メディカル事業本部 M.ReT宮崎運営室 室長。M.ReT宮崎では、お客さまのサポートや施設のマネジメント、新しい研修企画などをおこなっている。 

国内半数のシェアを誇る会社としての責任。「安心安全の治療を行うためには、現場にも技術的知見が必要」 

――今回は、日機装が行う「透析治療に携わる医療従事者向け研修」をテーマにお話をお聞きしていきます。まずは、透析治療の概要から簡単にご説明いただけますか。

透析治療は「慢性腎臓病」によって低下した腎臓の機能を補うために行われる、患者さまにとって欠かせない治療です。

中でも末期の慢性腎不全の治療法として患者さまの97%が選択される「血液透析療法」は、人工腎臓(ダイアライザー)を用いて血液中に溜まった老廃物と余分な水分を取り除き、きれいになった血液を体の中に戻すもの。週3回、1回あたり約4時間の治療を継続的に行うことで、生命をつなぐ役割を果たします。  

血液透析のイメージ

――そのような重要な役割を担う透析治療の領域において、装置開発を担うメーカーとして取り組むべき課題には、どのようなものがありますか?

大前提として、生命に関わる重要な治療を患者さまに安心して受けていただくために、「患者様の負担が少なく効率的に治療が行われる装置であること」「故障が起きづらい透析装置であること」が重要になります。

しかし一方で、透析装置も機械ですから、開発時に設計の工夫を行っていても、故障をゼロにすることは難しいのも事実です。

さらに近年「安全で快適な治療」と「医療従事者の負担減」の実現に向けた技術開発が進む中、装置の構造や仕組み、アプリケーションが複雑化しており、透析装置の維持管理の難易度は増していると言えます。

こうした状況を背景に、「故障が起きづらい装置づくり」に加え、「故障が起きてしまった場合の、装置が止まっている時間(ダウンタイム)を最小限にすること」も喫緊の課題となっています。

――国内透析装置シェア50%を超える日機装では、2つの課題に対してどのような工夫をしているのでしょうか。

まずは「故障が起きづらい装置づくり」の観点から、装置の部品点数を少なくした設計を行うともに、設計・製造部門における様々な検証活動を行っています。

またエラーを見過ごして故障につながってしまうことを防ぐため、機械が自動的にエラーを検知して教えてくれるようなシステムの開発にも力を入れています。 

――「故障が起きた場合の、ダウンタイムの最小化」についてはいかがですか。

サービス情報を閲覧できるWebサービスを常時配信しているほか、24時間体制のコールセンターを設置し、経験豊富なサービスエンジニアがいつでもお問合せにご対応できる体制をつくっています。

また、当社が全国の医療機関に納入した装置情報は、、医療機関ごとに設置状況や使用状況などをデータベース化しているため、お問合せをいただいた際は即座に状況を把握し対処できるのも特徴の一つです。

しかし一刻も早い復旧のためにはこれらの取り組みだけでは十分でなく、医療機器を取り扱われている医療従事者の皆さまが、装置の仕組みや原理に対する理解が必要となります。だからこそ私たちは、「装置を理解する機会の提供」を重要視し、医療従事者向けの研修を行っています。

透析装置を理解し、適切な判断・対処方法を知るための研修を

研修風景

――医療従事者向けの研修で提供している内容について教えてください。

装置の原理や仕組みのほか、装置が安全に使用できるかどうかの判断基準とその定期的なチェック方法、エラーが起きた際に治療の継続が可能かを判断する基準、そして故障時の修復方法まで、幅広い内容をおさえています。装置が持つ機能を100%発揮するために、また故障のリスクを減らすとともに、緊急時に正しい対処を行うために、必要となる「正しい知識と技術」をご提供しています。

これらの知識を身につけ、適切な判断と対処が現場のみなさんの手でできるようになることが、患者さまに不安を与えず、よりスムーズで安心安全な治療を行うことにつながると考えています。

――研修には、どのような方が参加されていますか?

主に臨床工学技士の方や、医療機器の保守管理を専門的に行っている方にご参加いただいています。また中には、自主的に参加される看護師やドクターもいらっしゃいます。

――医療従事者向けの研修はいつごろから始めたのでしょうか。

研修を開始したのは、1972年のことです。当時は医療機器に対する専門知識を持つ医療従事者がいませんでした。

そのような状況を受け、日機装は「事故の予防や消耗備品の交換、そして故障への対応を行うためにも、医療機関には医療機器の有識者が必要だ」と訴え、1972年に東村山工場にて日本で初めての医療従事者向けトレーニングを開始。その後静岡に拠点となるトレーニングセンターを設けて取り組みを続けてきました。

現在は「M.ReT宮崎」にその拠点を移し、さらなる研修の充実に力を入れています。

2021年オープンの「M.ReT宮崎」で、受講者一人ひとりに寄り添う研修を提供

―2021年にオープンした、「M.ReT宮崎」とはどのような施設なのでしょうか。

「M.ReT宮崎」は、静岡のトレーニングセンターに代わる医療従事者向け研修の新拠点です。施設内には、実習を行うための充実した設備を備えています。

また今後リリース予定の装置の基礎研究も行っており、日機装の製品開発においても重要な役割を担います。

――今回、宮崎に拠点の新設を決めた理由を教えてください。

国内拠点の再編成により、日機装の航空宇宙事業・インダストリアル事業の生産拠点でもある宮崎に、工場や施設を集約していることが背景にあります。お客さまに当社の主要3事業を知っていただき、日機装グループとしての総合力を感じていただきたいですね。

また今後、よりこの宮崎の地に根付いた企業として地元に貢献していきたいという思いもあります。そのためにも「M.ReT宮崎」では、受付や研修講師は宮崎出身の方を積極的に採用しています。

――「M.ReT宮崎」における医療従事者向けの研修は、どのようなスタイルで行われるのでしょうか。

研修にはオンライン学習のみのコースと、オンライン学習と実技実習を合わせたコースの2種類があります。

「オンライン学習のみ」のコースは、オンデマンド型の研修で、自宅や職場で空いた時間に学習できるスタイルです。

もう一方の「オンライン学習+実技研修」のコースでは、オンデマンド型の学習に加え、実際に施設で装置を操作しながら学んでいただけます。

実際に装置に触れていただくのが一番ではありますが、昨今の社会情勢の中でも安心して研修を受けてもらえるよう2種類のコースを設けており、最近では「オンライン学習のみ」を選択する方が多くなっています。

――「M.ReT宮崎」の研修の特徴を教えてください。

「M.ReT宮崎」では、研修を受ける方一人ひとりの学習ペースに合わせた研修を行っているのが大きな特徴です。

いままでの「教壇に講師が立ち、講義を行う」というスクール型の研修では、人それぞれ理解度が違うのに研修ペースは一律で、参加者それぞれに最適化した学習をお届けできない......という課題がありました。

一方「M.ReT宮崎」では、オンラインでいつでもテキストを閲覧でき、また研修を受ける方ご自身でスケジュールを組み立てることができます。そのため、苦手なところを何度も復習したり、ご自身が使用される透析装置について重点的に学習することもできます。

また実技研修では、半個室の専用ブースで集中して研修に取り組み、疑問があればいつでもトレーナーに相談できる仕組みになっているのも特徴です。

専用の半個室ブースでほかの方を気にすることなく振り返りができるので、納得するまで学習できます。また、研修で使用する透析装置は研修専用で実際の治療には使わないので、「壊してしまったらどうしよう」とプレッシャーを感じることなく、やりたいことに挑戦していただけます。

――とても洗練された施設の内装デザインが印象的ですが、何かこだわりはありますか? 

研修施設というと白い壁に囲まれた無骨なイメージがあるかと思いますが、「M.ReT宮崎」はリゾート感のある清潔で快適な施設であることにこだわっています。 

せっかく宮崎まで来ていただいているので、日常を忘れてゆったりと過ごしてもらいたいという思いがあります。

そのためにも、ホテル並のおもてなしをめざし、高品質なサービスの提供にもこだわっています。 実際に施設を訪れた受講者の方からも「スタッフの方の対応がよかった」との声をいただいております。 

日機装と「M.ReT宮崎」が実現したい医療のあり方

――「M.ReT宮崎」がめざしていることはなんでしょうか?

まずは医療従事者の方々に、日機装のメディカル事業への理解を深めてもらうことです。透析装置についての研修のほかに、外科手術用デバイス「アクロサージ」の製品説明設備や感染対策ソリューションなどの展示や解説を行うなど、当社メディカル事業のアンテナショップであるM.ReT宮崎を通じて、日機装のファンとなっていただけたらと思います。

また現在は医療従事者をターゲットにしていますが、今後は一般のお客様もお招きする予定です。また施設をアップデートしてエンターテインメント性を高めることで、宮崎から九州、さらには全国へとお客さまの輪を広げ日本全国に当社のメディカル事業をPRしていきたいです。 

――最後に「M.ReT宮崎」を通じて実現したい、今後の展望を教えてください。

M.ReT宮崎は、透析装置の保守管理研修を行えるのに加え、機能説明や快適な透析治療の提案が出来るデモルームも備えております。また、実際に体感できる外科デバイスを体感できたり、血糖モニタリング装置の製品説明設備や、深紫外線LEDを活用した製品を紹介する感染対策ソリューションルームなども備えています。M.ReT宮崎は、当社メディカル事業の「これから」を体験する事が出来るショールーム施設なのです。

お越しいただくお客様には、感動や驚きをお届けするとともに、日機装がこれまでと同様に、これからも医療を創造し合えるパートナーとしての関係をより強固にしていけることを願っています。

またM.ReT宮崎は、日機装が開発する医療機器製品や要素技術の研究や検証のためにも、重要な拠点と位置づけてられています。ここを訪れる皆さまからいただいたインプットが技術開発面のイノベーションにつながっていくと信じ、皆さまとともに医療の「ミライ」を創造していければと思います。