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2024/03/13

【宇宙ビジネス最前線・下】「地域から宇宙ビジネスをつくる」minsora・高山社長の挑戦

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【宇宙ビジネス最前線・下】「地域から宇宙ビジネスをつくる」minsora・高山社長の挑戦

目次

活況を迎えている九州の宇宙ビジネスについてお伝えする連載【宇宙ビジネス最前線】。今回は九州・大分で活躍するキーパーソンのお話から、宇宙ビジネスをさらに飛躍させるためのヒントを探ります。

衛星データの配信事業や、宇宙ビジネスのコンサルタント業務を展開している株式会社minsoraの高山久信社長は、長年、東京の大手電機メーカーで宇宙ビジネスを企画してきました。退職後、豊富な知見と実績を生かして2019年に宇宙ベンチャー企業を設立すると、翌年に拠点を故郷の大分県に移転。宇宙ビジネスに取り組む県内企業を集めて一般社団法人を立ち上げ、地域のコーディネーターとしても尽力しています。

高山社長が九州・大分で取り組む、先進的な衛星データビジネスとは。そして、長年の経験をもとに考える宇宙ビジネスの現状と課題は。

宇宙をキーワードに、新しいビジネスを地域から

——本日はよろしくお願いいたします。まず経歴について教えてください

高山社長:大分県豊後大野市出身です。三菱電機に入社後、宇宙ビジネスの新しい事業創出を担当。宇宙ステーションや太陽観測衛星、準天頂衛星システム「みちびき」などのプロジェクトで、企画や予算付けといった事業計画を立てていました。その後、システム企画部長に就いて、三菱電機の宇宙事業全般の取りまとめやプロジェクト企画事業戦略に取り組みました。

2016年からは一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構に勤めて、内閣府と一緒に宇宙ビジネスの創出活動を展開。2019年4月に株式会社minsoraを起業しました。起業したのは東京でしたが、宇宙ビジネスに非常に熱心に取り組む意向があった県からの要請もあり、私自身のルーツでもあるので大分県に拠点を移しました。

——minsoraでのお仕事はどのようなものですか

高山社長:宇宙をキーワードに新しいビジネスを地域からつくり、宇宙産業全体を盛り上げていくのが私の業務です。主に、宇宙関連の技術やデータを使って新しいことや課題解決をしたい県内外の企業さまなどに対する、コンサルティング業務をしています。

——具体的なサービスについて伺います。まずセンチメータ(cm)級位置補正情報配信事業「CLARCS」について教えてください。

高山社長:CLARCS(CLAS-based RTK Correction System)は、準天頂衛星システム「みちびき」が配信する、誤差わずか数センチの高精度な測位補強情報サービスCLAS(Centimeter Level Augmentation Service)を、安価に利用できるようにしたサービスです。

「みちびき」から発信されるcm級測位情報は、受信機が高額なために一般利用が進んでいません。これを一般利用できるように、測位情報をいったんminsoraのサーバに取り込んで、そこからインターネットを経由してユーザーの携帯電話に送信、さらに従来の安価なRTK受信機で得られる測位情報と組み合わせることで、任意の環境においてcm級測位ができるようにしています。

——特徴はなんでしょうか

高山社長:測位できる範囲を決める仮想アンテナを全国どこでも立てることができ、その半径10キロくらいの範囲でcm級の測位が可能となることです。実際に使われているのは、ゴミ収集の運行管理システムや工事現場での進捗状況を把握するための測量などです。

BIOISMの「廃棄物収集車両運行管理システム」にminsora社の衛星測位補正情報サービス「CLARCS」を利用する社会実装が報道されました。

——「宇宙ビジネス」がキーワードとなって活気付いている九州・大分で仕事をするメリットはありますか

高山社長:私が大分でビジネスを始めた頃は、大分県では宇宙ビジネスについてほとんど知られていないという状況でした。しかし、2020年に大分県が宇宙ビジネス創出推進自治体に選出。さらに同年度に九州経済産業局においては「九州宇宙戦略推進会議」が開催され、九州全体で宇宙産業を盛り上げていこうという動きが始まりました。すると、当社としても問い合わせが多くなり、動きやすくなってきたように思います。大分というより、九州で宇宙ビジネスを行うことがメリットだと言った方が良いかもしれません。

夢物語でなく「宇宙ビジネスは儲かる」を示す時

——minsoraとは別に、一般社団法人おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)を立ち上げたのは、どんな狙いからですか

高山社長:2020年に大分県が宇宙ビジネス創出推進自治体に選ばれましたが、県内にプレイヤーとなる企業がほとんどなったため、県から相談を受けて発足させました。県にとっては民間企業に情報を伝える場、民間企業にとっては県の情報を受けてビジネスを生むための機会創出やネットワークの場。このようにすることがOSFCの目的です。どこにいけば、どんな情報を得られ、どんな技術があるのかを、ワンストップで知ることができます。現在は46社が所属しており、大分県などの公共団体は賛助会員として入っています。

——minsoraのコンサル事業やOSFCでの活動を通じて、九州の宇宙ビジネスの現状をどのように受け止めていますか

高山社長:情報提供や機運醸成といったフェーズ1が終わったのではないか、いや終わらせなくてはいけない時期だと思います。九州だけでなく日本全体でもそうですが、宇宙ビジネスの機運醸成をしても実事業にはまだまだ至っていません。ですから、今後やらなくてはいけないのは実事業です。宇宙ビジネスに取り組むと、実際にお金がもうかる、売り上げにつながるというモデルを示せなくてはいけません。研究開発や実証プロジェクトではなく、社会実装に軸足を移す必要があります。

ステークホルダーには夢物語ではなく、直近3年5年の間にできることを発信する。例えば実利用が可能な衛星データが受信できて、自社ではこんな仕事ができるとか。そういうことを伝えてビジネスチャンスを増やしていくのが重要だと考えています。

衛星データビジネスは階層的、参入できる余地はさまざま

——「宇宙ビジネスは儲かる」と示すにあたって必要なのは、どのようなことでしょうか

高山社長:いまの宇宙産業の主流は衛星データビジネスですが、そのビジネスフローに対する認識に課題があると考えています。「衛星データがあれば、ビジネスが起こる」という短絡的な認識ではいけません。

地球観測衛星が観測したデータは、位置情報や熱、土壌など、さまざまな種類のデータが一緒に入っています。それを、使う人の目的に合わせて加工することが必要です。例えば、農業に使いたい人と、漁業に使いたい人では、欲しいデータが違ってきます。

そのため、用途に合った衛星データがユーザーの手元に行き渡るまで、さまざまな技能を持った人が必要です。

衛星が取得したデータからビッグデータを構築する人、ビッグデータを用途ごとに加工する人、加工したデータを統合してプラットフォームとして提供する人、それをユーザーが使うサービスとするためにコンテンツを開発する人…。

このようにビジネスフローは階層的なのです。

しかし、こうした階層的なビジネスフローが認知されていないために、各階層にプレイヤーがなかなか参入していないのが現状です。このような状況の中で、データを利用する側がデータを探そうとしても、加工されていない生データしかなく、利用のハードルが高くてあきらめてしまうことが起きています。結果として衛星データの利用が進んでいません。

ですから、「衛星データビジネスには、こんな仕事がある」ということを、細分化してビジネスフローとして、しっかり示さなくてはいけません。そうすれば、「この分野であれば 自分の/うちの会社の 技術が生かせる」と人や企業が加わり、新たなビジネスが生まれてきます。そのため、当社としては自分事として捉えてもらうような情報提供をしていかなくてはいけないと考えています。

観測データのインフラ化に向けて準備を進める

——九州全体で宇宙産業を発展させるには、どのようなことが必要ですか。

高山社長:各県ごとに特徴や課題があるので、それに沿った衛星データを考えていく必要があるのではないでしょうか。例えば、日機装の工場がある宮崎県であれば森林が豊かなので森林管理、大分県であれば稲作が盛んなので農業、長崎県や熊本県であれば離島へドローンを飛ばすための位置情報など。あるいは、防災減災の観点からは、県の上空にとどまって24時間、県土を観測できるような衛星が求められてくるかもしれません。

こうした各県の課題や特徴に応じた宇宙ビジネスをけん引していく地域のコーディネーターを育成し、地域に即した衛星データの使い方をみんなで共有していく場が重要です。さらに、それを九州全体で拡大して考えることも大事ですね。

——こうした方向性の中で、minsoraやOSFCをどのようにしていきたいですか

高山社長:OSFCについては、ワンストップで衛星データビジネスや宇宙ビジネスのことを知って、議論できる場があるということを、ますは知ってもらうことが重要だと思っています。

それからminsoraについては、個別の企業さまに対するサポートなので、早く成功事例をお見せできるようにしたいです。測位衛星で取得した位置情報に関しては、すでに「CLARCS」がありますが、地球観測衛星で取得した情報に関しては、まだまだ事業化が進んでいません。

ただ、地球観測衛星の取得データについても、民間利用が可能になるようなインフラ化は必ず行われるので、それに向けて今から準備する必要があります。すぐにサービスインできるよう、研究開発や実証実験をお客さまと一緒にやっていきたいと考えています。

株式会社misnora (minsora.jp)


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