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2023/05/09

宇宙ベンチャーが取り組む開発とは?企業事例や今後の展望を紹介

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宇宙ベンチャーが取り組む開発とは?企業事例や今後の展望を紹介

目次

宇宙ビジネスが国内外で飛躍的な成長を遂げ、新たな産業分野として注目を集める昨今。 

かつては国の機関が主導する形で進められていた宇宙開発ですが、近年では民需拡大や国による法整備などを背景に民間企業、中でも「宇宙ベンチャー」と呼ばれる新興勢力の市場参入が活発になっています。 

今回はそんな宇宙ビジネスと宇宙ベンチャーについて、現状や取り組み事例から発展に向けた課題、そして今後の展望まで、詳しくご紹介します。 

急拡大する「宇宙ビジネス」 

人工衛星

宇宙ビジネスとは、宇宙空間を活用して商業目的で行われる事業全般のこと。 

もとは各国の機関が主導する国家プロジェクトのような位置付けで進められることの多かった宇宙開発でしたが、1980年代ごろから少しずつ商業化の流れが生まれ、2000年代以降はベンチャー企業が続々と参入するなど民間主導の開発にシフトしてきた歴史があります。 

参入企業の増加によって技術開発がより加速したことが、既存の宇宙ビジネスの成長や新たな事業・サービスの誕生を後押しするひとつの要因となり、市場は大きく拡大。2016年にはおおよそ36.9兆円であった宇宙ビジネスの市場規模(世界)は、2040年代にはおおよそ120.2兆円にまで成長すると予測されています(※)。 

(※参照:財務省「日本の宇宙産業の発展に向けて」) 

宇宙ビジネスの種類 

宇宙ビジネスにおいては、グローバルスタンダードとしての事業領域は定められておらず、国や参入する企業がそれぞれに事業領域を定義しながら多様なビジネスを展開しています。ここではいくつかの事業例をピックアップしてご紹介します。 

  • リモートセンシング:人工衛星から放出する電磁波を使用して地球を観測する
  • 通信:高度2,000km以下の低軌道に打ち上げられた衛星で、ブロードバンド通信を提供する 
  • 宇宙探査:無人もしくは有人の探査機によって、宇宙空間や地球以外の天体などの調査を行う 
  • 製造・開発:衛星やロケットの製造、開発を行う
  • 軌道上アフターサービス:打ち上げ後の衛星のメンテナンス、衛星の寿命延命、軌道上のゴミ処理を行う 
  • 宇宙旅行:宇宙空間での滞在や宇宙を経由した移動といった体験を提供する 

なぜ今、宇宙ベンチャーの新規参入が増えている? 

宇宙ベンチャーの新規参入が増えていることのひとつの大きな要因として、アメリカ政府による政策の変更があります。国家安全保障上の都合によりかつては国が宇宙開発を主導していましたが、2000年代にアメリカ政府がスペースシャトルの後継となる民間有人宇宙船の開発を決定し、NASAはSpace X・Boeingと契約しました。 

さらに世界中で宇宙開発にまつわる規制が緩和されて民間企業が参入できるようになると、低軌道に打ち上げる小型衛星を多くの企業が競い合って開発を進めることで衛星のコストダウンが実現しました。これにより、数百億円もの打ち上げコストがかかっていた当初と比べて、市場への新規参入の障壁は大幅に下がったのです。 

また、衛星の打ち上げ数が増えたことに伴い、衛星を用いた情報の取得・活用、インターネットやブロードバンド通信の提供といった関連ビジネスも盛んになりました。 

特に、衛星から得られる位置情報や気候情報をはじめとした地球上の情報=ビッグデータの活用に注目が集まっており、企業がこれらのデータを用いて既存のビジネスの効率を高めたり、新たなビジネスを生み出して市場に参入したりする動きが見られています。 

宇宙ベンチャーの参入・成長を後押ししている政策 

宇宙ベンチャーの新規参入やその後の成長を後押しする要素として、国の政策による支援が挙げられます。ここでは米国と日本を例に、宇宙ベンチャーによるビジネスを支援する国の取り組みをご紹介します。 

【米国】民間への支援体制を構築 

米国では、民間企業による宇宙関連ビジネスを促進するために、以下をはじめとしたさまざまな支援制度を設けて環境整備を行っています。 

  • 各州が宇宙ビジネスの誘致を目的として、税制上の優遇や研究開発支援を行う 
  • 商業化の後押しとして、宇宙ベンチャーが提供するデータや飛行機会などをNASAが購入する 
  • NASAの持つ技術を民間に移転することなどを目的として、NASAの施設や専門知識へのアクセスを開放する など 

また市場で調達可能、かつ国の要求を満たすものについては、可能な限り宇宙技術やサービスを国が購入するという方針を掲げており、この要求を満たすために「商用の宇宙機に政府の技術を搭載する」といった工夫も是認されています。 

さらに支援制度を設けるだけでなく、規制によるビジネスへの負担が最小限になるようにすること、許認可が適時行われるようにすることなど、民間企業が進出しやすくビジネスを継続しやすい体制が構築されているのが特徴です。 

 (参照:内閣府「商業宇宙活動を後押しする米国の施策」) 

【日本】宇宙活動法の施行 

日本においては、2018年に人工衛星などの打上げと人工衛星の管理に関する法律「宇宙活動法」が施行されました。 

宇宙活動法では、人工衛星の打上げや管理を行う場合に許可を得る必要があることが定められ、構造や打上げ計画、安全面などにまつわる審査基準が示されました。基準が明らかにされたことで、各企業にとっては対策すべき点が明確になり、よりビジネス参入しやすい環境になったと捉えることができます。 

加えて、打上げに伴って打上げ用ロケットの落下などによる損害を与えた場合、打上げ実施者が過失の有無にかかわらずその責任を負うとし、打上げ実施者には損害賠償を担保するための保険締結などの義務が課されました。 

損害賠償は保険でカバーされ、保険対象外の事故の場合や保険でカバーしきれない額については、政府による補償が想定されています(一定の要件を満たした場合)。 

宇宙ビジネスにおいては、開発時の資金だけでなく打上げ失敗などによる賠償も企業にとっての大きな経済的リスクとなり得るものです。この点について法律でリスク緩和が行われたことで、より民間企業による参入障壁が下がると期待されます。 

 (参照:e-GOV「人工衛星等の打上げと人工衛星の管理に関する法律」)  

宇宙ビジネスに取り組むベンチャー企業 

会議中の様子

続いて、宇宙ビジネスに参入しているベンチャー企業6社をピックアップし、その取り組み事例をご紹介します。 

Space X:人工衛星を活用したネットワークサービスを提供 

アメリカ・カリフォルニア州のSpace Xは、ロケットの開発・打上げや有人宇宙船の開発、衛星を利用した高速で低遅延のインターネットサービス「Starlink」などの提供などを手がける宇宙ベンチャーです。これまでに150以上ものフライトを行うなど実績を重ねており、2022年12月、KDDIはau通信網でStarlinkの利用を開始しています。 

(参照:SpaceX HP, KDDI「スペースXの『Starlink』をau通信網で利用開始 」2022,12) 

Blue Origin:有人の宇宙旅行を実現するべくテストフライトを実施中 

アメリカ・ワシントン州のBlue Originは、ロケットの開発・製造・打上げや宇宙船の開発を手がけています。現在は宇宙旅行実現に向けてテストフライトを重ねており、これまでに弾道飛行用の有人宇宙船「ニューシェパード」による22回の飛行、6回の有人飛行を成功させています。 

 (参照:Blue Origin HP, HP News>「Blue Origin Successfully Completes 22nd Mission to Space」2022,8) 

Planet Labs:約200基の衛星によるデータを官民問わずに提供 

アメリカ・カリフォルニア州のPlanet Labsは、人工衛星の開発と、人工衛星によって撮影した衛星画像を扱うサービスの提供を主要事業とする宇宙ベンチャーです。200基を超える衛星を運用して地球の撮像を毎日行い、撮影した画像をもとに取得・解析した正確なデータを民間企業や公的機関に提供しています。 

 (参照:Planet Labs HP) 

OneWeb:ソフトバンクと協業し高速ネットワークの提供を構想 

イギリス・ロンドンのOneWebは、政府機関や企業、エンドユーザー向けに衛星通信サービスを提供する宇宙ベンチャーで、2021年4月時点で182基の衛星打上げを完了させています。またソフトバンクグループをはじめさまざまな企業から資金調達を行っており、2021年5月にはソフトバンク社との「日本およびグローバルでの衛星通信サービスの展開に向けた協業」に合意しました。 

(参照:OneWeb HP,ソフトバンク社HP ニュース「ソフトバンクとOneWeb、日本およびグローバルでの衛星通信サービスなどの展開に向けた協業に合意」2021,5)

Axiom Space:世界で初めて民間主導のISSへの打ち上げを成功 

アメリカ・テキサス州のAxiom Spaceは、宇宙ステーションの開発・運用や民間向け宇宙旅行サービスの提供などを手がける宇宙ベンチャーです。2022年4月には世界で初めて、民間人による国際宇宙ステーション滞在ミッション「Ax-1」を成功させ、現在は商用宇宙ステーションの開発に取り組んでいます。 

 (参照:AxiomSpace HP, HP News>「New York Post - Private astronaut team strapped in for historic space station launch」2022,4)

Astroscale:宇宙ゴミの除去・軌道上サービスを提供 

日本を本社・研究開発拠点とするAstroscaleは、軌道上サービスを専門とする宇宙ベンチャーです。衛星打上げの活発化に伴って増える軌道上の宇宙ごみを低減・除去するべく、「運用終了した衛星の除去」や「既存の宇宙デブリの除去」といったサービスの実現に向けた技術開発を実施。スペースサスティナビリティの実現に向けてあらゆる開発・活動を行っています。社会的注目度が高く、JAXAとの実証実験や多くの資金調達も実現しており三菱電機や実業家の前澤友作氏などからの資金調達を行っています。 

(参照:Astroscale HP, 日本経済新聞「アストロスケールが101億円調達、三菱電機などから」2023,2) 

日本の宇宙ビジネスの課題  

望遠鏡を覗く人

ここでは、日本の宇宙ビジネスの発展に向けて挙げられる課題を2つご紹介します。 

政府からの需要に依存している 

日本の宇宙ビジネスにおいては、その需要のほとんどが政府による研究開発投資などの「官需」であり、例えば宇宙機器産業においては売上高のおおよそ9割を官需が占めています。 

このように売上のほとんどを政府に依存しているために、開発・製造した衛星などを購入する事業会社が少なく、国内での製品販売をスケールさせるのが難しくなってしまっているのが現状です。さらに、これにより民間企業が投資家からの認知度を高めづらいことも、資金調達を難しくし宇宙ビジネスの発展を遅れさせるひとつの要因となっています。

研究開発の投資が不十分 

直近15年ほどにわたって、日本の宇宙関係企業における「研究開発投資額の売上に占める割合」は2%前後と低い値で推移しており(※)、盛んに研究開発が進められているとは言えない状態が続いています。 

特にベンチャー企業においては資金調達が大きな課題に。宇宙ビジネスの成長を加速するためには投資の促進や政府による支援が重要になると言えるでしょう。 

(※参照:一般社団法人 日本航空宇宙工業会「航空宇宙産業データベース」2022,8)  

宇宙ビジネスの今後 

最後に、国内外における宇宙ビジネスの今後の展望について見ていきましょう。 

2040年頃に市場規模が現在の3倍ほどに  

宇宙ビジネスは今後も成長を続け、世界の宇宙ビジネス市場規模は3,500億ドル(2020年)から1兆ドル以上(2040年代)に、そして日本においては約9兆円(2016年)から約32兆円(2050年)にまで拡大すると予測されています。 

(参照:Morgan Stanley「Investing in Space Exploration」、NTTデータ経営研究所「長期的な宇宙ビジネス市 場規模の試算」) 

日本政府が宇宙産業についての成長ビジョンを提示  

日本政府は2016年に宇宙活動法を成立させ、2017年には「宇宙産業ビジョン2030」を提示しました。その中で、 

  1. 宇宙利用産業における「衛星データへのアクセス改善」と「衛星データの利活用促進」 
  2. 宇宙機器産業における「国際競争力の確保」と「新規参入者への支援」 
  3. 海外展開 
  4. 新たな宇宙ビジネスを見据えた環境整備

という4つの軸から民間企業の役割の拡大を進め、宇宙ビジネス全体の市場規模を2030年代早期に倍増することを目指す(※)としています。 

 (※参照:内閣府「宇宙産業ビジョン2030」) 

宇宙分野でも注目される、日機装のCFRPの設計・製造技術 

Cube Sat(超小型衛星)放出機構Cube Sat(超小型衛星)放出機構※

今回ご紹介した宇宙ビジネスの盛り上がりに伴い、日機装が持つ「CFRP」の設計・製造技術への注目度が高まっています。 

CFRPとは、プラスチックに強化材として炭素繊維を加えた複合材料のこと。優れた耐候性や振動減衰特性、疲労特性といった性能の高さから、航空宇宙や自動車、医療・介護、建築、レジャーなど幅広い領域で用いられてきました。 

近年増加している宇宙ベンチャーが手がける衛星は、元々低軌道の小型・超小型なものが多かったのですが、ミッションが多様化してきたことで、衛星が大型化するケースがあります。それに伴い、衛星部品の軽量化の必要性が高まっており、金属ではなく比較的軽量で強度の高いCFRPへ部品を置き換えるニーズが出てきているのです。日機装はCFRPを用いた衛星部品の開発において約20年の実績を持っており、独自の設計・製造技術の活用が期待されています。   

※Cube Sat(超小型衛星)放出機構
CubeSatと言われる超小型衛星を搭載して宇宙へ打ち上げ、軌道付近で衛星を放出する装置のこと。 


CFRPと金属のちがい〜CFRPのメリットを技術者が解説〜|Bright

軽さと強度、品質を極限まで突き詰める分野において、「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」の活用が広まっています。金属との違いをふまえたCFRP活用のメリットや日機装が手がけるCFRP製品の設計・製造の特徴について解説いたします。

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まとめ 

宇宙から見た地球

国内外において、民間企業が宇宙ビジネスに参入するための法整備や支援体制構築が行われたことで、宇宙ビジネス全体が盛り上がりを見せており、その市場規模は今後もさらに拡大していくと予想されます。 

日本では、早期に民間による開発体制が構築された諸外国からの遅れを取り戻すべく、衛星開発や衛星データの利活用促進に向けた環境整備、海外展開などに積極的に取り組んでいくという方針が掲げられています。 

このような動きを背景に、市場の拡大が予想される人工衛星の開発において、日機装がこれまで培ってきたCFRPの設計・製造技術を活かして貢献してまいります。 


拡大する日機装の宇宙事業「航空のノウハウを衛星部品製造に」|Bright

民間航空機のエンジン逆噴射装置部品「カスケード」などを製造してきた日機装。実は宇宙ビジネスの市場に参入している企業の一つです。近年、航空機部品の製造で獲得してきたノウハウを生かして、人工衛星部品の製造に力を入れています。武器となっているのはCFRPの成形技術です。日機装が手掛ける人工衛星部品の強みや今後の成長戦略を航空宇宙事業本部の齋藤賢治本部長に聞きました。

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