いのちの現場
2024/06/26
透析治療の先進地・欧州で存在感│注目集める日機装の自動化機能
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目次
独自の技術とノウハウで、透析医療を50年以上にわたりリードしている日機装。国内の血液透析装置(以下、透析装置)のシェアは50%を超え、1990年代にはヨーロッパの規格に適合する透析装置を開発し、以来、欧州をはじめ海外でも日機装の製品が採用されています。
本記事より始まるシリーズ「世界中の患者さまのために」では、透析装置メーカーのパイオニアである日機装が、国内のみならず世界中で透析医療のニーズに応えるための取り組みを、ご紹介していきます。
初回となる今回は、日機装が海外で初めて拠点を設立したドイツで、Nikkiso Medical Europe GmbH(Nikkiso Medical Europe)の駐在員として働く松原 祐樹氏にインタビュー。透析治療における日本と欧州の違いや、日機装の製品が海外で評価されている理由について、話を聞きました。
松原 祐樹:Nikkiso Medical Europe Corporate Planning部所属。ヨーロッパ、中東、アフリカ各地における透析装置の営業、マーケティングおよび経営企画を担当している。また、ヨーロッパ市場と日本のインターフェースとして市場要求を日本へ展開し、より良い製品開発のためのインプット、Nikkiso Medical Europeの各部署の連携強化の仕組みづくりを行っている。 (※所属・肩書は取材時点のものです) |
技術的な要求の高い欧州、日機装ならニーズに応えられる
――はじめに、日機装が大手の競合企業がひしめく欧州へ進出した経緯を教えてください。
松原:もともと欧州では、現地の大手透析装置メーカーが市場を先導し、透析装置のスタンダードを確立していました。激戦区ではなく、未開拓の市場から攻めるという戦略も選択の一つですが、日機装のブランド力や信頼性を高めるためには、欧州でこそ実績を示す必要がありました。ドイツやフランスでの成功は、他の国へ拡販を図る際の大きなファクターとなりますから。
また、欧州は規格も厳格で技術的な要求が高い特徴があります。日機装も技術力に自信を持った企業ですので、市場ニーズにマッチしていると考えました。また、新たなハイエンドモデルを開発する意味でも、高機能化に向けたニーズを収集しやすい欧州市場への進出を目指すこととなりました。
――血液透析治療において、日本と欧州にはどのような違いがあるのでしょうか?
松原:まずは、透析液の供給方式が異なります。そのため使用されている装置そのものにも違いがあります。日本は「セントラル方式」と呼ばれる方法で透析液を供給していますが、欧州では「個別方式」と呼ばれる方法が採用されており「個人用透析装置」を使用します。
セントラル方式というのは、機械室にある透析液調整装置でまとめて作成した透析液を、治療室にある複数の患者さまの透析装置に分配供給する方法で、透析液を効率よく供給できることが特徴です。
一方、欧州で採用されている個別方式は、それぞれの患者さまが使われる透析装置で個別に透析液をつくる方法で、患者さまに応じて透析液の成分や濃度が異なるという特徴があります。日機装では従来より両方式の技術を有していたので、その土地の治療環境やニーズに適した方式の装置を納入してきました。
――国によって供給方式が異なるのですね。他にも欧州ならではのポイントがあれば教えてください。
松原:欧州では、ハイエンドモデルを求められるのも特徴ですが、同じ欧州でも国によって若干の違いがあります。例えばフランスでは、透析専門のクリニックではなく、総合病院で透析治療が行われています。そのため、治療する様々な医師が患者さまの状況を把握し、素早く対応できるようにオプション機能をフル装備した装置が求められています。
具体的には、「透析治療中の血圧を測るための血圧計」「透析量をリアルタイムで計測できる透析量モニタ」「血液量の相対変化をモニタする血液量モニタ」「透析原液をシステム的に装置へ供給できる仕組み」の4種類を搭載することが多いですね。
――文化や価値観の部分ではどうでしょうか?
松原:文化の違いから、ニーズにギャップを感じることもあります。例えば、装置の設計に関して言えば、日本では治療の柔軟性が求められるため、医療従事者の判断によりフレキシブルに操作できるような機能を取り入れています。
しかし、欧州ではメーカー側で手順やルールを完全に決めきることが求められます。「日機装としての明確な考え方」が必要で、それを守らないと装置が使えない作りになっています。日本では需要のある医療従事者が柔軟に取り扱える仕様が、デメリットになることもあるんです。
オートメーションシステムを皮切りに、欧州で評価を獲得
――欧州で日機装の透析装置が評価されたきっかけは何だったのでしょうか?
血液透析治療を行うにあたっては、血液回路やダイアライザーといった消耗品を装置に取り付けたうえで、事前に生理食塩水もしくは高度に清浄化された透析液で回路内を洗浄し、満たしておく必要があります。また、治療が終了した後も、血液回路内に残った血液を体内に戻す必要があります。従来はこれらの治療前後の作業を医療従事者の方々が全て手作業で行っていましたが、「DBB-EXA」では、消耗品をセットしてボタンを一つ押していただけば、装置が一連の作業を自動的に済ませてくれます。スタッフの治療準備の時間を短縮することで、患者さまのケアにより多くの時間を使っていただくことも可能になります。
「DBB-EXA」によって、欧州でも日機装の技術力が認められ、装置の採用件数が増えていきました。
この好調の背景の一つに、欧州での医療従事者不足があります。透析装置は操作者の能力や熟練度に左右される部分がありますが、現場ではその操作者でもある看護師の数が足りていないのが実情。比較的簡単に操作できる「DBB-EXA」が必要とされるシーンが増えていったのです。日機装のオートメーションシステムは当時の市場に大きなインパクトを与え、競合会社が危機感を覚えるほどだったと聞いています。
――人手不足はどの国でも喫緊の課題と言えますね。日機装ではどのような取り組みで対峙されているのでしょうか?
松原:大切にしているのは、教育面でのフォローです。透析装置の操作方法を看護師が一人一人に教えていては、治療現場に負担がかかってしまいます。そこで、ドイツにいる日機装のメンテナンス担当や専属看護師が、積極的に基礎トレーニングを行っています。
また、年に1度、各病院で教育を担当している看護師や技術者、販売代理店の方に研修を実施。そこで学んだ内容を、現地の部下や後輩に伝えてもらう取り組みも行なっています。研修受講後にお渡しする認定証がないと日機装の透析装置を扱えないルールになっており、知識のアップデートを効果的にサポートしています。
――欧州で評価され続けるために、必要だと感じていることを教えてください。
松原:近年では特に、環境面への配慮が求められています。血液透析治療を行うには、大量の水と電気が必要なうえ、血液回路などの廃棄物も発生します。それらのエネルギー使用量やCO2排出量をすべてデータ化して環境負荷の低減策を提示する必要があるので、我々としても注力しているところです。
――具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか?
松原:例えば、透析装置を製造する金沢製作所にソーラーパネルを設置したり、重油に比べてCO2排出量が少ないLNG(液化天然ガス)をボイラ燃料に使用することで、製品製造時のCO2排出削減を図るなど、環境対策に取り組んでいます。
さらに、現在は当社装置専用の血液回路をベトナムで作ってコンテナ船で欧州まで運び、そこからトラックで配送していますが、コロナ禍に発生させたリスクに対する対策として、欧州地域内におけるバックアップ生産体制を検討しています。この計画は、透析治療を行う上で欠かすことのできない製品の供給リスクを軽減すると同時に、輸送距離の短縮によりCO2排出削減を図るもので、製品の安定供給と環境負荷が低い輸送の両立を目指しています。
現場のニーズを汲み取り、現地の患者さまに最適な治療を
――最後に、より高い品質・より上位モデルが求められる欧州での展望を教えてください。
松原: 日本で日機装がマーケットリーダーであるように、欧州でも市場を牽引するポジションになり、あらゆるお客様に第一選択として選んでいただける、パートナーになることが目標です。その武器となる次世代のフラグシップとも呼べるモデルを作るために、高機能化や環境配慮などのニーズを積極的に汲み取っていきたいです。これからも医療機関の皆さまの声に耳を傾け、現地の患者さまに最適な治療を提供していきます。
▼血液透析治療については、以下の記事で説明しています。
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