いのちの現場

2023/09/27

【#2 大切な “腎臓”の基礎知識】腎機能の一部をカバーする「透析療法」の仕組み

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【#2 大切な “腎臓”の基礎知識】腎機能の一部をカバーする「透析療法」の仕組み

目次

【大切な “腎臓”の基礎知識】をテーマに、腎臓病とその治療にまつわる情報をお届けする本連載。第2回となる今回は、病気によって損なわれた腎機能の一部をカバーする「透析療法」の種類や仕組み、手順について詳しく解説します。

透析療法とは

透析療法

透析療法とは、病気によって機能が損なわれた腎臓に代わって血液中の老廃物や余分な水分を取り除くなど、患者さまの生命を維持するために欠かせない療法のこと。日本国内では、34.9万人(2021年末)の方が透析療法を行っています。(※1)

(※1 参照:日本透析学会「2021 年日本透析医学会統計調査報告書 調査結果と考察」)

透析療法には、「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があり、体の状態やライフスタイルなどを考慮しながら患者さま一人ひとりに合ったものが選択されます。


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透析療法でできること

透析療法では、腎臓の機能をすべてカバーすることはできず、その一部をカバーします。主に次の4つをねらいとして行われます。その他、造血ホルモンの生成やビタミンDの活性化については薬剤等で調整します。

  1. 尿毒素を取り除く
    →腎臓の働きによって体外に排出されるべき老廃物(尿毒素)を取り除きます。
  2. 余分な水分を取り除く
    →腎臓の働きによって体外に排出されるべき水分を取り除きます。
  3. 電解質のバランスを整える
    →ナトリウムやカリウム、カルシウムなど血液中に含まれる電解質について、多すぎる場合は取り除き、反対に不足している場合は補うことで正常な範囲に整えます。
  4. 血液のpHを調節する
    →血液が弱アルカリ性の望ましい状態になるように、血液中に含まれる酸を取り除き、アルカリを補います。

透析療法が必要な人って?

腎臓、医者

慢性腎臓病によって損なわれた腎臓の働きを補う透析療法は、次のいずれかを基準に開始されます。

  • 腎臓の機能が正常の10%以下にまで低下している

  • ホルモンバランスの乱れや、老廃物の蓄積による症状(尿毒症)が現れている

2つの透析療法

ここでは、「血液透析」と「腹膜透析」の概要や仕組み、手順などを解説します。また、それぞれの治療に伴って起こり得る合併症についてもご紹介します。

透析療法の仕組み

透析療法では、次の2つの基本原理が用いられています。

  • 拡散:液体中に溶け込んでいる物質が濃度の高い方から低い方へと移動し、均一な濃度になろうとする原理のこと。
    →血液と透析液が透析膜を介して接することでこの原理が働き、血液中の老廃物は透析液側へ、血液中に不足している物質は血液側へと移動します。また、血液中に不足している物質は、透析液側の濃度を高くすることで補うことができます。拡散

  • 限外濾過:機械的な圧力が強くかかっている液体へ、透析膜を介して水や物質が移動する原理のこと。
    →透析膜を介して接する血液と透析液のうち、透析液側に引っぱる力をかけると体内の余分な水分が血液から透析液側へ移動します。限外ろ過

血液透析治療

血液透析治療

血液透析治療では、患者さまの血液を一度体の外に出し、人工腎臓と呼ばれる「ダイアライザー(血液透析器)」を用いてきれいにした血液を体の中に戻す治療法です。

ダイアライザーの中にある「中空糸透析膜(半透膜 ※2)」と呼ばれる高分子でできたストロー状の膜を介して、ストローの内側を流れる血液と外側を流れる「透析液」を接触させることで、血液中の老廃物や余分な水分を透析液に移し、一方で血液中に不足している物質を透析液から補います。

患者さまは、週に3回ほど通院し、1回あたり4〜5時間かけて血液透析治療を受けています。こうした通院の負担がある一方で、余分な水分や老廃物をしっかりと除去できること、人工膜を使用するため安定的・長期的に治療が行えることなどがメリットとして挙げられます。日本においては、腎不全患者さまの約97%(※3)がこの「血液透析治療」を行っています。

(※2 半透膜:一定の大きさ以下の分子、もしくはイオンだけを透過させる膜のこと)
(※3 参照:日本透析学会「2021 年日本透析医学会統計調査報告書 調査結果と考察」)

血液透析治療の手順

医療機関によっても異なりますが、一般的に血液透析治療は次のような手順で行われます。

  1. 治療準備
    ・体重測定:体重を測定して記録する。
    ・血圧測定:注射針を刺す方と反対の腕で血圧を測定する。
    ・消毒:注射針を刺す血液の取り出し口・戻し口にあたる部分「シャント(※4)」を消毒する。
  2. 治療
    事前に手術にて作成したシャント(血液を体外に出すためのもの・体内に戻すためのもの)に注射針を刺し、血液を取り出し、血液透析治療を始めます。治療中は読書やテレビ鑑賞をしたり、眠ったりして過ごす患者さまが多く、気分がよく、血圧が安定していれば食事をとることもできます。
  3. 終了
    ・止血:取り出していた血液を返血し、注射針を抜いてその部分をしっかりと押さえ、血液が止まっていることを確認した上でガーゼを当てます。必要に応じて止血バンドで圧迫します。
    ・体重測定:再び体重を測定して記録します(取り除かれた水分量を確認します)。
  4. 退室、帰宅
    透析治療によって短時間に水分や溶質除去が起こるため、体に負担がかかり、血圧が下がりやすい状態になっています。脳貧血によるめまいや立ちくらみに気をつけて帰宅します。また血液低下や注射針を刺した部分からの感染を防ぐために、入浴は避けて体を拭く程度とします。

(※4 シャント:利き腕と反対側の手首付近で動脈と静脈を縫い合わせた血管のこと。シャントを作ることで、動脈から静脈へ直接血液が流れるようになり、血液透析に必要な血液流量が確保される。)

血液透析治療に伴う合併症

血液透析治療は、本来腎臓が24時間かけて行う働きを、週に3回、1回あたり4〜5時間という短時間で行うものです。これによって体の中の状態が急激に変化することから、次のような合併症を引き起こす可能性があります。

【血液透析中に起こる合併症】

  • 足がつる、血圧低下(血液中の水分量の低下による)

  • けいれん、頭痛、嘔吐(老廃物量の低下による) など

【長期にわたる血液透析によって起こる合併症】

  • 骨や関節の痛み(カルシウムとリンのバランスの乱れなどによる)

  • 心不全や高血圧、不整脈など循環器系の疾患(水分・塩分の蓄積、カルシウムとリンのバランスの乱れなどによる)

  • 皮膚のかゆみ(皮膚の乾燥と老廃物の蓄積による)

  • 貧血(赤血球を作るホルモンの減少などによる)

  • 感染症(抵抗力の低下による) など

腹膜透析治療

腹膜透析治療

腹膜透析治療は、血液を体外に出すことなく、患者さま自身の腹膜を「透析膜」として利用してお腹の中で血液をきれいにする治療法です。

手術によってお腹に挿入した管「カテーテル」から、通常1.5〜2Lの「透析液」をお腹の中に貯留し、腹膜を介して老廃物や余分な水分を透析液に移し、一方で血液中に不足している物質を透析液から補います。

月に1~2回の通院のほかは、透析液を1日に3〜5回、30分ほどかけて交換することで、透析を行いながらいつも通りの生活を送ることができるため、生活スタイルに合わせて継続しやすい治療だといえます。

また、血液透析治療よりも溶質除去が緩徐であり腎臓の機能に近い形の治療法でもあります。自身の腹膜を用いて治療を行うため、腹膜の機能や感染に気を付けた生活が必要となります。

しかし、日本において腹膜透析を行っている患者さまは、血液透析の患者さまと比べて圧倒的に少ないのが現状です。腹膜透析は血液透析と併用するケースもありますが、この併用するケースも含めて、腹膜透析の患者さまの数は全体の約3%にとどまります(※5)。

(※5 参照:日本透析学会「2021 年日本透析医学会統計調査報告書 調査結果と考察」)

腹膜透析治療の種類

腹膜透析治療には、「CAPD(持続携行式腹膜透析)」と「APD(自動腹膜透析)」の2種類があります。

  • CAPD:透析液の注液・排液を患者さま自身や介助者が行う腹膜透析療法のこと。1日に3〜5回、6〜8時間ごとに透析液の排液(バッグ交換)を行う。

  • APD:「自動腹膜灌流用装置」を用いて、透析液の注液・排液を自動的に行う腹膜透析療法のこと。→注液・排液は睡眠中などに行われ、日中のバッグ交換の回数が減らせることから、患者さまの生活の質の向上や介助者の負担軽減が望めます。

腹膜透析の手順

腹膜透析は、次のような手順で開始されます。

  1. 入院、カテーテルの挿入
    透析液を出し入れするための細い管「カテーテル」をお腹に入れる手術を行います。手術は1時間程度で終了します。
  2. トレーニング
    バッグ交換のしかた、カテーテルの出口部のケアのしかた、入浴・シャワー浴や食事に際しての注意点など、正しく腹膜透析を行うための指導を受けます。
  3. 退院
    自宅や職場などで、腹膜透析の種類(CAPD、APD)に合わせたバッグ交換やカテーテルの管理を開始します。

腹膜透析で起こりやすいトラブル

腹膜透析治療は、次のようなトラブルを引き起こす可能性があります。

  • 腹膜炎
    トラブルのサイン:排液が白く濁っている。頭痛や発熱がある。

  • 出口部感染、皮下トンネル(※6)感染
    トラブルのサイン:出口部や皮下トンネル部に赤みや痛み、うみなどがある。

(※6 皮下トンネル:カテーテルの、皮下を通っている部分のこと)

併用療法

併用療法とは、腹膜透析と血液透析を組み合わせた治療法のことで、それぞれの治療の良い点を活かしながら行う透析療法です。主に腹膜透析を行い、原則週1回の血液透析を組み合わせる方法などが取り入れられています。

在宅血液透析

腹膜透析と同じように、自宅で透析治療を行う在宅血液透析も透析療法として実施されています。患者さまご自身・介護者とともに安全に透析治療を行えるように施設にてトレーニングを経た後で、ご自宅に機器・機材を持ち込んで実施されます。

まとめ

腎臓

透析療法とは、病気によって機能が損なわれた腎臓の代わりに、血液中の老廃物や余分な水分の除去を行う治療のこと。

透析療法には血液透析や腹膜透析の2種類があり治療方法を選択することができます。透析療法を受けられる際には、自分のライフスタイルに合った治療方法を考えながら、主治医や担当スタッフの方々とも相談することが大切です。

参考文献:
日機装株式会社,今井裕一監修「腎不全ってなあに?腎不全と上手に付き合うために」
日機装株式会社,水口潤・平松信監修「やさしい透析療法 生き方を選択する透析ライフ」


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