いのちの現場

2023/08/30

【#1 大切な “腎臓”の基礎知識】腎臓の働きや病気の予防 入門編

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【#1 大切な “腎臓”の基礎知識】腎臓の働きや病気の予防 入門編

目次

最も重要であるという意味で使われる“肝心(肝腎)”。これは、肝臓、心臓、腎臓は人体にとって重要な臓器であることから表す言葉です。

腎臓は体内の環境を正常に保つために重要な役割を果たしますが、腎臓の機能低下は気づきにくいものでもあります。大切な腎臓を病気から守ることや、機能低下を早期に発見して適切な治療を受けることは重要です。

本連載では、大切な“腎臓”をテーマに、腎臓病とその治療にまつわる情報をお届けします。

第1回となる今回は、基礎知識として腎臓の構造や主な機能と、腎臓病、腎臓病予防についてご紹介いたします。

そもそも腎臓とはどんな臓器?

腎臓

腎臓とはどのような臓器なのか、まずは基礎知識からご紹介します。

腎臓の位置と構造

腎臓はそら豆状の形をした左右一対の臓器で、腰の上あたり、背骨の両脇に位置しています。成人の腎臓は1つあたり120g〜150gほど、握りこぶしくらいの大きさです。

大まかな構造としては、尿を作る「ネフロン」と、作られた尿を集める「腎盂(じんう)」、集めた尿を膀胱へ送り出す「尿管」からなります。

腎臓の働き

腎臓は体の中の環境を正常に維持するために、主に4つの役割を果たしています。

1.尿の生成

腎臓では、流れ込んだ血液をろ過して体に必要な成分を再吸収する一方、老廃物や余分な水分、塩分などは尿として排出しています。

これによって体内に有毒な物質が溜まらずに済むだけでなく、体内の水分量やナトリウム、カリウムといった電解質のバランスも正常に保たれます。また、血液の酸性・アルカリ性の調整をするのも腎臓の役割のひとつです。

2.血圧の調節

血圧を正常な範囲内に保つために、腎臓は血圧の状態に応じて塩分と水分の排出量をコントロールしたり、血管の収縮を促す「レニン」というホルモンを分泌しています。

3.造血ホルモンの分泌

腎臓は、骨髄に赤血球を作るように命令するホルモン「エリスロポエチン」を分泌します。このホルモンが骨髄の中にある細胞を刺激することで、赤血球の量の調節が促され、体中に酸素を運ぶのに十分な血液量が保たれます。

4.ビタミンDの活性化

腎臓は、ビタミンDを活性化させ「活性型ビタミンD」を作り出します。この活性型ビタミンDの働きによって、小腸からのカルシウムの吸収が促され、骨が発育するとともに骨のカルシウムが溶け出しにくくなります。

腎臓は最も複雑な臓器のひとつ?

尿を作り出す腎臓のネフロンは、腎臓に血液を送る血管から枝分かれした毛細血管のかたまり「糸球体」と、この糸球体からこし出される尿の通り道「尿細管」の2つからなる機能単位です。

糸球体の表面には、血液をろ過するフィルターの役割を持つ細胞や膜が張り付き、また、尿細管には体に必要な成分を効率的に再吸収するための微細な毛がたくさん生えています。

このように複雑な構造を持つネフロンは、1つの腎臓に約100万個存在すると分かっており、それらの集合体を含む腎臓は人の体の中でも “最も複雑な臓器のひとつ” といわれています。

腎臓の病気について知ろう

腎臓の構造

慢性的に腎機能が低下した状態は、「CKD(慢性腎臓病)」と呼ばれています。さらに症状が進行すると「腎不全」に至ります。

CKD(慢性腎臓病)とは

CKD:Chronic Kidney Disease(慢性腎臓病)とは、腎臓の働きが通常の60%未満にまで低下し、自覚症状の有無にかかわらず腎臓の異常が続いている状態のこと。「腎臓の異常」は、具体的に次のように定義されます。

  1. 尿検査や画像診断、血液検査などによって明らかに障害があると分かる(特に、尿に必要以上のタンパク質が出ている状態)。
  2. 糸球体で1分間に作れる尿の量が基準値を下回っている。

これらのいずれか、もしくは両方が3ヶ月以上続いている場合はCKDと見なされ、腎機能の程度に応じた対処や治療が必要です。

※CKDはある特定の病気ではなく「慢性的に腎臓の異常が続いた状態」を指すもので、原因となる病気や障害を受けている構造・部位によって数十種に分類されます。

参考・引用文献: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586595.pdf

腎不全とは

腎不全とは、腎臓の働きが低下し、体の中の環境を一定に保ったり老廃物や余分な水分を排泄したりできなくなった状態のこと。腎臓の働きが時間、または日単位で急激に悪くなる「急性腎不全」と月、または年単位で悪くなる「慢性腎不全」があります。

  • 急性腎不全:手術やけが、発熱によって出血や脱水を起こした後に、むくみ、高血圧、不整脈などの症状が急速に現れる。原因を取り除き、適切な治療を受けることで尿量が通常通りに戻り、その後腎臓の機能は回復する。
  • 慢性腎不全:CKDが長く続いた際に慢性腎不全になる。治療によって進行は遅らせられるが、腎臓の機能をもとの状態に戻すことはできない

腎不全になる原因

 腎不全の原因となる病気は

  • 高血糖の状態が続き、糸球体や血管に障害が生じる「糖尿病性腎症」
  • タンパク尿や血尿が1年以上続く「慢性糸球体腎炎」
  • 高血圧や高脂血症で腎臓内の動脈が硬化する「腎硬化症」
  • 遺伝によって、腎臓の中で袋状の “のう胞” が多く発生して腎臓を圧迫し、障害を与える「多発性のう胞腎」
  • 腎臓の各部が細菌に感染して炎症を起こす「慢性腎盂腎炎」

などさまざまですが、透析治療の開始に至るケースの多くは「糖尿病性腎症」が原因となっています。

慢性腎不全になった際の治療法は?

慢性腎不全になってしまった場合、原因となっている病気の治療とともに、腎機能がさらに低下することを防ぐための対処も必要です。主な対処法としては次の2つが挙げられます。

  • 食事療法:塩分やタンパク質、リン、カリウムの摂取を制限すること・適正なカロリーを摂取することを意識し、食事によって腎臓にかかる負担を軽減する療法。
  • 薬物療法:腎不全の程度や、原因となっている病気の種類、合併症の有無などに応じて薬を服用し、腎不全の進行を遅らせたり腎機能低下によって起こる症状を和らげたりする療法。

急性腎不全の場合、多くの患者さまはこれらの対処をすることで腎機能を回復できますが、慢性腎不全となってしまった場合、残念ながら回復させることはできません。

さらに病状が悪化し、ホルモンバランスの乱れや、老廃物の蓄積による症状(尿毒症)が現れてしまった場合、腎臓の働きを補う腎代替療法として次のいずれかの治療を受けることになります。

  • 透析療法:血液中の老廃物や余分な水分を取り除く機能の一部を、腎臓に代わって人工的に果たす療法。
  • 腎移植:手術によって新しい腎臓を移植することで、腎臓の機能を回復させる療法。

透析療法

腎不全に対する根本的な治療となるのは腎移植ですが、日本ではドナー不足により腎移植があまり進んでいません。そのため、最も一般的に行われているのが透析療法です。

透析療法は、腎臓に代わって ①老廃物を取り除く ②余分な水分を排出する ③電解質のバランスを整える ④血液の酸性・アルカリ性の程度を調節する の4つの機能を人工的に果たすために行われるもので、次の2種類があります。

  • 血液透析:血液を一度体の外に出して血液透析器(ダイアライザー)に通し、内部の透析膜を使って血液中の老廃物と余分な水分を取り除いた上で、きれいになった血液を体に戻す治療法。患者さまは通常週に3回通院し、1回4時間かけて治療を行う。
  • 腹膜透析:患者さまのお腹の中に透析液を一定時間入れ、患者さま自身の腹膜を介して血液中の老廃物や余分な水分を取り除くことで、血液をきれいにする治療法。透析液の入ったバッグを1日に3〜5回ほど交換する。

治療法の選択

慢性腎臓病では特に、患者さまの治療に対する価値観やライフスタイルに合わせて、医師、患者、家族と治療法を決定していくことが重要です。腎代替療法(血液透析、腹膜透析、移植)だけでなく、緩和・保存的治療(透析治療や移植を望まない方法)など、治療の選択肢・情報を共有し、話し合いを重ねて医師と患者が一緒に意思決定するプロセス「SDM: Shared Decision Making」の考えが広まっています。

日常生活で腎臓の病気を防ぐ方法

健康的な食事

腎臓の病気の発症には、日常の生活習慣や食事が大きく影響するといわれています。

生活習慣を見直す

腎臓の病気を未然に防ぐために、まずは次のような観点から生活習慣を見直してみましょう。

  • 適度な運動を定期的に行う
  • 適度に水分補給を行い、排尿を我慢しない
  • ストレスを溜め込まない
  • 十分な休息、睡眠をとる
  • 喫煙や過度の飲酒をしない
  • ウイルスや細菌に感染しないように清潔を心がける
  • 過剰な服薬をしない

食生活に気をつける

食生活に気をつけて肥満を予防・解消することも、腎臓の病気の予防において重要です。

  • バランスのよい食事を心がけ、タンパク質をとりすぎない
  • 野菜を積極的にとる
  • 塩分のとりすぎに注意する
  • コレステロールを多く含む食事や乳製品、肉の脂身を避ける

※ただし、CKDの自覚症状がある場合や生活習慣病を患っている場合などは、性別・年齢・生活状況・病気の状態などによって食生活の注意点が異なるため、この限りではありません。かかりつけ医にご相談ください。

まとめ

腎臓

腎臓は、腰の上あたりにある左右一対の臓器。尿の生成や血圧の調節、造血ホルモンの分泌などを行うことで、体の中の環境を適正かつ一定に保つ役割を果たしています。

こうした機能を脅かす腎臓の病気とその治療法にはいくつかの種類がありますが、ある程度まで腎臓の機能が失われて慢性腎不全と診断されてしまうと、完治させることはできません。

体にとって非常に大切な腎臓の機能を守るためにも、日常生活において生活習慣や食事に気を配ることが重要です。

【大切な “腎臓”の基礎知識】 第2回となる次回は、腎機能の一部をカバーする「透析治療」の仕組みについて詳しく解説します。


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参考文献: 日機装発行「腎不全ってなあに? 腎不全と上手に付き合うために」、「やさしい透析療法 生き方を選択する透析ライフ」より一部抜粋