ものづくり

2026/10/16

チップレット集積が注目される理由——半導体「微細化の限界」とこれからのアプローチ

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チップレット集積が注目される理由——半導体「微細化の限界」とこれからのアプローチ

目次

世界的に生成AIの普及が進む中で、それを支える半導体の新たな技術に大きな注目が集まっています。

これまで半導体は、回路を小さくする「微細化」の技術によって性能を向上させてきました。ただ、現在は微細化だけで全体の性能を上げることが難しくなりつつあり、半導体を取り巻く開発のあり方には変化が求められています。

そうした中、次世代のアプローチとして期待されているのが、複数のチップを高度に組み合わせる「チップレット集積」です。

今回は、大手半導体メーカーで長年パッケージング技術の研究開発に携わり、現在は東京科学大学の特任教授として「チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアム」を率いる栗田洋一郎先生にインタビュー。半導体の基礎知識や技術開発の現状、そして日機装を含む国内企業との共同研究の展望についてお話を伺いました。

 栗田 洋一郎

東京科学大学(旧東京工業大学)総合研究院 未来産業技術研究所 特任教授。1996年に日本電気(NEC)に入社。NECエレクトロニクス、ルネサスエレクトロニクス、東芝といった半導体メーカーで半導体パッケージング技術の研究開発に従事。現在は東京科学大学のほか、アオイ電子株式会社にも所属。2022年に、チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアムを設立し、代表を務める。

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半導体とは?暮らしを支える技術と役割

——まず、半導体とは何か、私たちの暮らしとの関わりから教えてください。

栗田先生:半導体は、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」のちょうど中間くらいの性質を持つ材料です。

半導体には特定の不純物を少し加えることで電気や電子の流れを自在にコントロールできる特性があります。この特性をLED照明の発光や家電・自動車の制御など、人間が必要とするさまざまな機能へと活用しているのが半導体技術です。今は本当に何にでも半導体が入っています。

栗田先生

——半導体にはどのような種類があるのでしょうか?

栗田先生:半導体は用途や市場などさまざまな切り口で分類されますが、ここでは分かりやすく「機能」の側面から4種類に整理しお伝えします。

まず、論理演算を行うコンピュータの中心的な存在が「ロジック半導体」です。トランジスタ※1を1と0のスイッチとして使い、ブール代数※2という数学を組み込んだ論理回路で処理します。経済産業省が「先端半導体」という際に指すことが多いのはこの分野ですね。スマートフォンやPCのCPU、AIチップ、自動運転の制御ユニットなどが当たります。

続いて、計算のもとになるデータやプログラムを記憶するのが「メモリ半導体」です。高速なデータの読み書きを得意とするDRAMや、長期保存向けのNAND型フラッシュメモリ(SSDやSDカード、USBメモリなど)が代表的です。サーバーや記録媒体などに使われています。

「アナログ半導体」は、光や音、電波、温度など、現実世界のアナログ信号を増幅したり、コンピュータが扱える情報へ変換したりする役割を担っています。これにより、デジタルカメラやスマートフォンのイメージセンサーなどさまざまな機器の動作を支えています。

最後に、電力の制御や変換を担う半導体が「パワー半導体」です。高電圧・大電流に耐えられる構造を持ち、電気自動車のモーター駆動部やエアコンのインバーター、太陽光発電の変電設備など、効率的な電力利用が求められる場面で活用されています。

※1トランジスタ:電気信号の増幅や、電流のオン・オフ(スイッチング)を行う小さな半導体素子

※2ブール代数:1と0だけを使い、論理演算(AND、OR、NOTなど)を表現する数学体系。半導体を使ったコンピュータの論理回路や演算処理の基礎となる。

AI時代に半導体の性能向上が求められる理由

——「AIと半導体」——最近この二つの言葉をセットで目にする機会が増えました。この状況を、長く半導体を研究してこられた栗田先生はどのようにお考えでしょうか。

栗田先生:昨今の生成AIの出現と進化は、人類にとってまさに「産業革命レベルの転換点」と考えられています。AIの基礎になるニューラルネットワークやこれをエミュレートするコンピュータ技術は20世紀からありましたが、コンピュータの中核である半導体集積回路技術が急速に進歩し、過去にイメージされていた「機械が実現する人工的な知能」そのものに近くなってきています。

シリコンバレーの開発者たちの間では、人間より高い知能を持つAIができて、病気や貧困といった難題も解決してくれるのではないかという、一種のユートピア思想まであります。

——そのようなAI時代において、半導体の性能向上が重要視されている理由を教えてください。  

栗田先生:AIがより人間に近い高度な処理を進めるには、より多くの計算を、より速く処理する能力が求められます。

現在のAIの裏側では、膨大な掛け算や足し算を繰り返す「行列計算」が行われており、この計算をいかに速く行えるかが、AIの性能向上に直結します。この計算を支えているのが演算を担うロジック半導体と、データを記憶するメモリ半導体です。  

半導体チップ上にトランジスタをより高密度に集積し、一度により多くの計算を処理できるようにするなど、半導体の性能を高める研究開発が世界中で進められています。  

——AIの進化において、現在の半導体技術に課題はあるのでしょうか。

栗田先生:これまで半導体は、主にトランジスタを小さくする「微細化」によって性能を高めてきました。しかし、巨大なAIシステムを構築する時代となり、微細化だけでは解決できない課題が出てきています。

例えば、ロジック半導体とメモリ半導体の間では、超高速かつ膨大なデータのやり取りが行われています。ところが、この経路が狭すぎるために処理の渋滞が起きてしまう。「ノイマン・ボトルネック」と呼ばれる大きな課題です。

微細化は、演算を速くはしても、メモリとの間の経路を広げてはくれません。もちろん、微細化技術は今後も半導体の進化を支える重要な基盤であることに変わりありませんが、「チップ単体を微細化すれば、全体の性能や効率も向上する」という時代から、集積するチップのサイズや密度、放熱、電力供給など、実装(パッケージング)技術も含めた総合的なアプローチによって性能を高める時代へと移行していると感じています。

微細化の限界と新たな設計哲学「チップレット集積」

——そうした課題を克服するために注目されているのが「チップレット集積」という技術ですね。

栗田先生:はい。チップレット集積とは、1つのチップにあらゆる機能を詰め込むのではなく、機能ごとに小さく製造した複数のパーツを、高度な技術で繋ぎ合わせてパッケージ化する方法です。

実は、複数のチップを1つのパッケージに詰め込む技術自体は以前から存在していました。ただ、それはあくまで「小さくすること」が目的で、いわば限られた箱の中におかずを詰め込む、お弁当のようなイメージです。

これに対して、チップレット集積は根本の設計哲学が異なります。例えるなら、プラモデルを組み立てるようなアプローチですね。

最初に理想とする完成形としてのシステムを描き、それを一度、機能ごとのパーツに分解してそれぞれ最適な方法で製造します。そして最後に、高度なネジや接着剤にあたる技術を用いて、もう一度きれいに組み上げていく。全体として最適に再構成されているかどうかが、単に詰め込むだけの従来技術との大きな違いです。

——そうした設計哲学の転換は、どのように生まれるのでしょうか。

栗田先生:チップレット集積のような新しい考え方も、解決すべき課題が明確になれば、結果として誰もが似た方向性にたどり着く可能性はあります。研究や技術開発で大切なのは、奇をてらった発想そのものではなく、まず「何が目的なのか」「どのような課題を解決する必要があるのか」を明確にすることだと考えています。

日本の半導体技術をつなぐ「チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアム」

——「チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアム」を立ち上げられた経緯を教えてください。

栗田先生:2010年代に国内の大手半導体メーカーが事業を縮小・撤退したことで、システム全体を一気通貫で開発する場が日本国内から失われてしまいました。一方で、日本には世界トップクラスの技術力を持つ優秀な装置メーカーや材料メーカーが数多く残っています。

国内に開発の場がないままだと、世界的に経済のブロック化が進む中で、日本の優れた技術すら海外で内製化されてしまいます。手を打たなければ日本の強みが消滅してしまうという、強い危機感からコンソーシアムを立ち上げました。

チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアムの詳細はこちら。

——日本の強みを守り再成長へ繋げるために、コンソーシアムはどのような役割を果たしているのでしょうか。 

栗田先生:私たちのコンソーシアムの役割は、大学と企業を繋ぎ、日本の優れた技術を研究で終わらせることなく、事業化まで導くことです。一企業だけで、開発から事業化までのバリューチェーンを構築することは容易ではありません。そのため東京科学大学や大阪大学、東北大学、名古屋大学などが中心となってテーマを設定し、複数の企業とともに研究開発から事業化までを支援しています。  

共同研究や特許出願だけでなく、学会発表による世界へのアピールやマーケティングまで一貫して支援し、日本の技術を競争力のある産業へ育てることを目指しています。  

東京科学大学プレスリリース:複数企業が参画する初の協働研究拠点「チップレット集積プラットフォーム協働研究拠点」を設置

東京科学大学

半導体の未来と日機装の精密技術

——コンソーシアムには日機装も参画しています。日機装に対する期待について教えてください。

栗田先生:日機装は、精密な製造装置や流体制御、熱圧着に関わる技術など、非常に優れたものを持っていると感じています。こうした技術をチップレットという切り口と掛け合わせることで、これまでにない新しい製造プロセスや事業を生み出せるのではないかと期待しています。

具体的には、現在「ヒートシンクの接合」をはじめとする放熱の分野でタッグを組み、検討を進めています。半導体の高密度化やチップレットの集積に伴い、発生する熱をどう処理するかという熱対策、いわゆるサーマルマネジメントは、システムを安定させる上で極めて重要な課題だからです。

新しいテーマも含めて、ここからさらに共同開発の領域を広げていこうと考えています。

——半導体にとどまらず、将来的なコラボレーションの可能性も広がりそうですね。

栗田先生:そうですね。東京科学大学は2024年に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合してできた大学で、医学部があります。医学部の知見と日機装が透析事業で培った知見、さらに私たちが持つ半導体の知見を掛け合わせることで、新たな研究テーマが生まれる可能性もあるのではないでしょうか。

また、日機装が手がける航空宇宙や医療の分野は、絶対に失敗が許されない「ミッションクリティカル」な領域です。だからこそ、そこで培われた技術や現場の課題には、半導体分野にも活かせるものがあると思います。企業が抱える課題を大学やコンソーシアムに持ち寄っていただき、それぞれの知見を掛け合わせながら解決していく。そうした取り組みを通じて、新たな価値を創出していきたいですね。

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