ものづくり

2026/05/26

巨大な1基から、つながる数千基へ。衛星コンステレーションがもたらす変化

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巨大な1基から、つながる数千基へ。衛星コンステレーションがもたらす変化

目次

日本の宇宙開発は今、大きな転換点を迎えています。経済産業省によると、宇宙市場は今後、年率9%の成長を続け、2035年には現在の2.8倍に達すると予測。民間主導によるロケット打ち上げや衛星の増産が進むなど、まさに過渡期にあります。

その中でも、注目されているのが「衛星コンステレーション」です。数多くの小型衛星を連携させるこの技術は、私たちの生活をどう変えるのでしょうか。

本記事では、日機装 航空宇宙事業本部 航空宇宙技術センターの大屋さんと、営業部の坂本さんに、「衛星コンステレーション」の基礎知識や、日機装と宇宙分野の関わりについて伺いました。(※所属・肩書は取材時点のものです)

大屋 正義:2022年入社。航空宇宙事業本部航空宇宙技術センター所属。人工衛星メーカーの技術者として、開発に40年以上携わる。現在は日機装の宮崎航空宇宙工場で人工衛星部品の開発に取り組む。

坂本 光隆:2020年入社。航空宇宙事業本部営業部所属。人工衛星向け部品、民間航空機向け部品やeVTOLなど航空宇宙向け製品を幅広く担当。新規事業開発プロジェクトにも携わる。

(※所属・肩書は取材時点のものです)

星座のようにつながる衛星コンステレーション

――そもそも衛星コンステレーションとは、どういうものですか?

大屋:コンステレーション(Constellation)は、英語で「星座」を意味します。衛星コンステレーションとは、星と星が線で結ばれる星座のように、地球の周りを飛んでいる複数の衛星同士を通信でつなぎ、網羅的にネットワークを構築する考え方のことです。

小型衛星はバッテリーや通信機器などに制約があるので、1基だけでは大きなデータを扱えません。しかし、複数基が分担し合うことで、1基あたりの負担を抑えながら、大量のデータを地上に届けることが可能になります。こうした衛星間通信の構想は20〜30年前から存在していましたが、近年は技術の進歩とコスト低下によって、民間サービスとして実用化が進んでいます。

――従来の衛星との違いを教えてください。

大屋:航空機で例えると、「500人乗りの大型ジェット機」と「2人乗りのセスナ機」ほどの違いがあり、規模も設計思想もまったく別物です。

コスト面では、大型観測衛星が1基数百億円規模であるのに対し、コンステレーションで用いられる小型衛星は数千万円〜1億円程度。さらに、小型衛星は1機のロケットに50〜60基をまとめて搭載できます。打ち上げに用いるロケットの規模や条件が異なるため単純比較はできないものの、1機あたりの打ち上げコストは大幅に抑えられるようになりました。

また、軌道高度にも違いがあります。観測衛星の多くが地上から500〜600km付近の高度を周回するのに対し、コンステレーションは350km前後の低軌道を飛行するものもあります。望遠鏡と同じ原理で、地上に近いほど細かく観測できるため、ビルの輪郭はもちろん、自動車や人の姿まで識別できるほど高分解度な観測や通信が可能です。

大屋さん

今、衛星コンステレーションが注目される理由

――なぜ今、衛星コンステレーションに注目が集まっているのでしょうか?

大屋:衛星1台の開発・製造コストが大幅に下がり、単機能の小型・超小型衛星であれば「誰もが作り、打ち上げられる」時代に近づいてきたことが挙げられます。

私たちのように昔から多機能な衛星開発に携わってきた人間にとって、「人工衛星は大きくて重たいもの」という先入観がありました。しかし約20年前、日本の大学生たちが10cm角の超小型衛星(CubeSat・キューブサット)を打ち上げたことで、「自分たちにもできるかもしれない」という空気が生まれ、世界中で宇宙関連スタートアップが誕生しました。現在はアメリカを中心に、日本国内でも実証や開発が進んでいます。

――技術的なハードルの低下やコストの変化が背景にあるのですね。

大屋:そうですね。さらに言えば、一般的な携帯電話で衛星通信ができるようになったことも挙げられます。低軌道を飛行する衛星コンステレーションは地上との距離が近いため電波が届きやすく、大出力のアンテナがなくても、携帯電話との直接的な通信が可能です。

これまでにも衛星と通信できる携帯端末サービスはありましたが、少し大きな専用端末が必要でした。しかし、そのような専用端末を使うことなく、普段使いの携帯電話で利用できる段階に入っていることも、注目を集める理由の一つだと思います。

リアルタイムデータの活用で変わる生活と影響

――衛星コンステレーションが普及すると、私たちの生活はどう変わるのでしょうか?

大屋:地球上の変化を、よりリアルタイムに近い形で把握できるようになります。現在も地表や海、森林、都市などを宇宙から観測する人工衛星が運用されていますが、同じ地点の真上を通過するのは約14日に1回程度です。しかし、低軌道に大量の衛星を配置するコンステレーションなら、1日に何度も同じ場所を観測できるようになります。

これにより、例えば災害発生時には、被災状況の変化を迅速に把握し適切な対応を行うことができます。また、地殻変動のデータを毎日蓄積し、今後の災害予測につなげるといった活用も期待できます。

――災害時の対応以外にも、他の産業への応用も広がるのでしょうか?

大屋:そうですね。通信インフラの分野では、山頂や海上など地上基地局が遠い場所でも、携帯電話の通信が途切れにくくなります。また、交通分野では、道路の混雑状況や事故を即座に検知できるようになります。車と衛星が直接つながることで、将来的には高速道路の料金所という仕組み自体が不要になるかもしれません。

農業の分野でも、トラクターなどの自動耕作機を衛星からのデータで精密に制御し、無人で農地を管理するといった使い方が考えられます。また、従来のGPSは高層ビル街などで電波が遮られ、位置情報が不安定になりやすいという課題がありました。現在も日本のほぼ真上を周回する準天頂衛星もありますが、低軌道の衛星コンステレーションの活用により、より安定した測位が期待されています。

―――非常に便利な技術である反面、懸念される課題もありますか?

大屋:低軌道は地球に近い分、大気や引力の影響を強く受けるため、軌道を維持するのに燃料を多く消費します。寿命が尽きた低軌道衛星は、大気圏に突入させて燃え尽きさせるのが一般的ですが、衛星を構成するアルミニウムなどの素材が燃え尽きる際には微細な粒が大気中に拡散します。海で問題になっている「マイクロプラスチックの大気版」とイメージするとわかりやすいかもしれません。

今後コンステレーションが拡大して衛星が頻繁に大気圏に突入するようになれば、大気汚染につながる可能性が指摘されており、近年、国際的な議論の対象となっています。

軽くて強く、安全。人工衛星の構造体に求められる品質水準

――ここからは日機装の取り組みについて伺います。日機装が宇宙・衛星分野に参入したきっかけを教えてください。

坂本:日機装が宇宙分野に参入したのは1998年頃のことです。もともと当社は、民間航空機のジェットエンジン部品「カスケード」の製造などを通じて、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の複雑な一体成形技術を培ってきました。

航空機と人工衛星は、どちらも「軽くて丈夫な素材」が求められる領域です。私たちが民間航空機で培ったCFRPの高度な技術は、そのまま人工衛星にも活かせると考え、宇宙分野の製品開発をスタートさせました。

坂本さん

――具体的に、どのような宇宙向け製品を製造しているのですか?

坂本:主な製品のひとつが「ハニカムパネル」です。蜂の巣状の芯材(ハニカムコア)をCFRPの薄い板で両側から挟み、そこに金属製の部品(インサート)を埋め込んで作ります。このパネルを組み合わせることで、構体と言われる人工衛星の骨格が出来上がります。

ほかにも、CFRP製のパイプや電磁波を遮断するカバー、近年では超小型衛星を軌道へ投入するための放出機構(ポッド)なども手がけています。これらは大型衛星から中小型衛星まで、幅広いお客様に採用いただいています。

関連記事:拡大する日機装の宇宙事業「航空のノウハウを衛星部品製造に」

超小型衛星放出機構

――人工衛星にはどんな技術が求められるのでしょうか?

大屋:重要視されるのは「軽量化と高剛性」です。ロケットで宇宙へ物を運ぶには厳しい重量制限があるため、衛星は軽ければ軽いほど望ましいとされています。そこで、CFRPのように鉄に比べて約4分の1の重さでありながら同程度以上の弾性率と強度があり、単位重量あたりの強度や変形のしにくさを備えた素材は、構造体の軽量化に大きく貢献すると言えるでしょう。

さらに、ロケット発射時には激しい振動による数十Gの加速度がかかります※。この過酷な環境を耐え抜き、かつロケットの振動に共振して壊れない高い剛性を実現する上で、CFRPは適した特性を持っています。

※地球での体重が数十倍になる状態

――品質や製造の面では、どのような要件が求められるのでしょうか。

坂本:安全性が最優先される航空機業界と同様に、高い品質保証水準が求められます。例えば日機装では、人工衛星部品を航空機部品と同じ宮崎日機装の工場で製造しています。大型部品にも対応可能な広いクリーンルームをはじめとする設備力を備え、民間航空機で培った品質管理体制のもとで製造を実施。こうした宇宙環境の要求に対応する上での一つの強みとなっています。

クリーンルームでの作業の様子

「CFRPといえば日機装」を宇宙分野でも

――衛星コンステレーションの拡大により、今後の人工衛星市場はどのように変化していくと思われますか?

大屋:今後は、山林開拓や農地管理といった産業利用から、個人の通信用途、エンターテインメント分野まで、幅広いビジネスの実用化が進むと考えられます。将来的には、台風のコントロールをはじめとした、天候そのものを制御するような壮大な取り組みも、夢ではないと思っています。

現在はサービス開始までのスピード感が重視されている傾向にありますが、これからは、衛星の耐久性向上や長期運用といった品質面への要求が高まることも予想されます。それに伴い、コストや即応性を優先する領域と、品質・信頼性を優先する領域とで、用途に応じた市場の棲み分けが進むのではないでしょうか。

――市場が成熟し、品質が求められるようになったとき、日機装の強みはどう活きてくるのでしょうか。

坂本:大型衛星で積み重ねてきた技術や品質体制を中小型衛星分野へ広げるのはもちろん、航空機部品で培った量産システムと品質保証のノウハウも大きな強みになると考えています。

人工衛星の軽量化において、CFRPは重要な役割を担う素材です。民間の衛星プレイヤーが増え、将来的に量産化が進む中で、航空機部品で月産数十機規模の製造を続けてきた日機装の体制を活かし、「CFRPといえば日機装」と、宇宙分野でも真っ先に選ばれるメーカーになっていきたいですね。

――最後に、2026年5月27日から開催されるSPEXA 2026への出展にあたって、来場者に伝えたいことをお聞かせください。

坂本:まずは、「日機装が宇宙分野の製品を手がけている」という事実を、多くの方に知っていただきたいと思っています。これまで金属部品が当たり前だった分野のお客様に当社の成形技術を知っていただき、CFRPならではの新たな選択肢をご提案することで、人工衛星開発の可能性を広げるお手伝いができれば幸いです。

SPEXA日機装ブース