ものづくり
2026/09/30
SiCパワー半導体の製造工程に革新。均一加圧を実現する新技術、「3Dシンター」開発の裏側(2026年9月更新)
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目次
EV(電気自動車)の普及が加速する中、その性能向上に貢献するとして「SiC(炭化ケイ素)パワー半導体」への注目が高まっています。中でも製造工程における「接合」は品質や生産性を左右する重要な工程です。
本記事では、その接合技術のうちの一つ、シンタリングに着目。日機装のシンタリング装置「3Dシンター」について、開発を担う技術者・森氏と井手迫氏へのインタビューを通じて、仕組みや強み、開発背景から今後の展望まで詳しく聞きました。
森 隆博:精密機器技術センター長。技術者として3Dシンターの前身をはじめとした装置の設計・開発・お客様への導入を経験した後、現在は電子部品製造のための生産装置や発電所用水質調整装置などの技術管理を担う。 井手迫 聡:精密機器技術センターにおいて、装置開発やお客様とのテスト対応などを担当する。 (※所属・肩書は取材時点のものです) |
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SiCパワー半導体の接合工程を変える「3Dシンター」、均一加圧で品質向上を実現
――本日はよろしくお願いします。まず「シンタリング装置」とはどのような装置か、ご説明いただけますか。
井手迫:昨今、従来の半導体よりも大きな電圧に耐え、大きな電流を流せる次世代の半導体デバイスとして「SiCパワー半導体」が注目を集めています。
SiCパワー半導体の製造工程において、チップを基板に接合する工程は品質や信頼性を左右する重要なプロセスです。この接合を、銀や銅などの材料を用いて熱と圧力で行う技術を「シンタリング」といい、その工程を行うのがシンタリング装置です。
――日機装が開発した「3Dシンター」とはどのようなものなのでしょうか。従来の装置との違いも踏まえて教えてください。
井手迫:従来の「メタルプレス方式」では、平板の金型でチップを上から押し付ける仕組みのため、加圧は平面的に行われていました。
これに対して、日機装の「3Dシンター」は独自の3Dプレス方式を採用し、柔らかいゲル状の弾性体によってチップ全体を包み込むように加圧します。これにより、従来の方式では難しかった加圧のばらつきを抑え、より安定した接合を可能にしています。
メタルプレスと3Dシンタリングの違い
――3Dシンターを用いることのメリットとしては、どのようなものがありますか?
井手迫:まず、接合工程における圧力ムラが解消できる点です。
従来のシンタリング装置では、チップの高さや配置によって加圧にばらつきが生じやすく、エリアごとに圧力差が発生するという課題がありました。
一方3Dシンターなら、チップの凹凸に追従する形でプレスするため、すべての箇所に均一な圧力がかけられます。「しっかりプレスできていないところがある」「圧力がかかりすぎてチップが割れてしまう」ということがなくなるのです。
3Dシンターと井手迫氏
たしかに従来の方式でも、チップの形状に応じた金型を使用することで圧力ムラを解消することは可能です。ただしこの方法では、チップごとに専用金型が必要となり、運用負荷が高いという課題があります。3Dシンターを活用いただくことで、このような手間と時間を削減できるほか、チップ種別の高額な金型を制作する必要もなくなるため、ランニングコストを大幅に削減できます。
さらに、3DシンターはSiCパワー半導体の強度を高めることにも貢献します。
従来はチップ部分への平面的な加圧のみだったので、チップと基板の間から接合材がはみ出した部分(フィレット部)には圧力がかかっていませんでした。つまり、この端の部分はしっかりと焼き固められていない状態で、ここからチップが剥がれてしまう懸念があったのです。
一方3Dシンターでは、チップ全体を包み込むようにして各方向から圧力がかかるため、フィレット部の強度が高くなり、チップ剥がれのリスクを抑えられます。
市場の動きに先駆けて、新技術を実現したい
――どのような経緯で、この3Dシンターの開発がスタートしたのでしょうか。
森:はじめからSiCパワー半導体向けの装置を開発していたわけではなく、MLCC(積層セラミックコンデンサ)の圧着工程における、水圧を利用した立体的なプレス技術の応用過程で見つけた一つの用途でした。
といいますのも、現在接合材として用いられている「ナノ銀」や「ナノ銅」は、耐熱性や耐久性の高さで注目を集めていた素材。これらの焼結温度は300度を超えることから、今後300度を超える温度でプレスを行う技術が求められそうだと考えていました。実際に、動作環境が高温になるSiCパワー半導体の領域において、かつて主流だった「はんだ」に代わる素材としてナノ銀やナノ銅が活躍するようになっていたのです。
一方で、有機物である弾性体が耐えられるのは200度まで。高温環境での適用が課題となっていました。当初はどうしたら300度という超高温でプレスができる装置を作れるか具体的なイメージはできていませんでしたが、「市場の動きに先駆けて、300度で均一な加圧ができる技術を見出そう」と今回の技術開発が始まりました。
――そこからどのように技術が実現し、3Dシンターの誕生に結びついたのですか?
井手迫:弾性体の素材や金型の構造を工夫しようと考えを巡らせましたが、“凹凸に追従できる柔らかさ” と “熱や圧力への強さ” を兼ね備えた素材や、均一な加圧ができる構造はなかなか見つからず、半年ほど試行錯誤が続きました。そんな中で、偶然のひらめきから生まれたのが「熱をかけたい部分(基板とチップの接合面)だけを温めればいい」という発想でした。
森:金型全体を200度まで加熱する手法から、弾性体を含む金型上部は加熱せず、加圧するワークを300度にまで温度を高める手法に変え、また接合材と弾性体の間に柔らかい断熱層を設ける仕組みに。これによって、弾性体が200度を超える高温になってしまうのを防ぎながら、加圧したい部分に熱がこもる状態を作り、300度でのプレスを実現したのです。
森センター長
さらに加熱用と冷却用の2つの金型を用意しておいてスイッチさせることで、これまで難しかったプレスをしながら急冷却が可能に。また、プレスを行う中で弾性体の温度が上がってしまうリスクが解消され、実用化に近づきました。
この技術が形になったのは、開発を始めてから2年ほどの時間が経った頃のことでした。そしてテストやデモを進める中で「シンタリングにもこの技術を応用できるはずだ」と気がついたことから、3Dシンターが誕生しました。
――技術開発をしていた時のお二人の思いはいかがでしたか?
森:多くの技術開発は、おぼろげながら構想があって「こうすればいいのではないか」という思いを持ちながら進めますが、今回は実はそれが全くありませんでした。ですので、実現性のあるアイディアに辿り着くまで、どうすべきか思いを巡らせる時間は苦しくもありました。
突破口となった「熱をかけたい部分だけ温める」というアイディアは、お風呂で自分が温まりながらたまたま思いついたんです。この発想への転換が、技術的なブレイクスルーとなりました。自分が「開発しよう」と言い出したことをやり遂げられてよかったです。
井手迫:私も、お客様のデモやテストに対応する中で「もっと高温でプレスしたい」「より大きな圧力が必要」というご要望をかねてお聞きしており、何とかしたいなと思っていました。今お客様ができずに困っていることを、日機装の装置、ひいては私たちの技術センターで一緒にできるようになればという思いで、開発を進めてきました。
森さんのアイディアは、外出先でたまたま会った時に聞きました。私が全く考えてもいなかったことでしたが、「おー、確かにこれならいけるんじゃないか」と行き詰まっていた道が開けた感じがしましたね。
拡大するパワー半導体市場に対応し、中国で急いだデモ拠点展開
――国内での「3Dシンター」のデモ機設置後、2023年1月には上海にデモルームを開設したとのことですが、上海への展開を進めた背景とは?
森:日本以上にパワー半導体市場が活気付いている中国に、装置を試せる場を作ることを急ぐ必要がありました。
特に中国のお客様は、プレゼンだけでは納得してもらえないことが多いです。その場で、パワー半導体のシンタリングが「できる」ということを立証する必要があるため、装置を上海へ持ち込んでデモルームを開設しました。
井手迫:接合材は、本来塗ってすぐに乾燥させてその場でプレスするのが望ましい、生ものと言える素材です。都度現地へ素材を持って行ったり送ったりすることなく、お客様のご要望を受けてタイムリーにデモができる現地拠点が必要でした。
――上海のデモルームの様子やお客様からの反響はいかがですか?
井手迫:デモのニーズはやはり一定数あり、お打ち合わせから素材の準備、条件の決定などを進めながら、週に1〜2件のデモを継続的に行っています。
これまで海外においては資料ベースでのご紹介が中心でしたが、装置の実物を前に大きさのイメージや構成を具体的に知っていただけるようになり、ご好評をいただいています。また、やはりご要望へのタイムリーなご対応ができるという点で「すぐにデモに対応してもらえてよかった」という嬉しいお声もありました。
「半導体・オブ・ザ・イヤー2026」で優秀賞を受賞(2026年9月追記)
――「3Dシンター」が、電子デバイス産業新聞が主催する、「半導体・オブ・ザ・イヤー2026」半導体製造装置部門の優秀賞に選ばれました。受賞のお気持ちを教えてください。
森:実は、「3Dシンター」は私たちが半導体業界に対して初めてリリースした装置です。新顔の日機装がこのような業界を代表する賞を頂けたことは驚きでしたが、名だたるメーカーの中でそれだけ高く評価してもらえたということであり、大変嬉しかったですね。
――どのような点が評価されたのでしょうか?
森:日本では、基板に半導体チップを一つずつプレスして接合するのが主流で、厚みが異なる複数のチップを一括でプレスするという発想自体が新しいものです。パッケージング工程の生産性向上が求められる中で、この新しい発想とそれを実装できる技術が評価されたようです。
SiCパワー半導体は今はあまり目立っていませんが、これまで主な用途とされていたEV以外にも、AIデータサーバ向け、発電所などで需要が増えています。こうした将来の市場へ向けた期待が込められた授賞だとも感じています。
――受賞後の反響はどうでしたか?
森:半導体のパッケージや材料メーカーのお客様からお声かけいただくようになりました。パワー半導体向けに限らず日機装の装置を使ってみたい、長期的な目標にむけて一緒に製品開発したいというご希望も頂いています。今回の受賞は、半導体の後工程という新たな分野での大きな一歩となりました。

SiCパワー半導体の量産化に向けて、3Dシンターの技術開発は続く
――それでは最後に、今後に向けた思いをお聞かせください。
森センター長・井手迫氏
井手迫:装置として形になってよかったという思いはある一方で、まだスタートラインに立ったところなのかなと思っています。デモを進める中で「もっとこうしてほしい」とさらなるご要望もいただいているため、どんどんブラッシュアップを重ねていきたいです。
現在はパワー半導体の大量生産というお客様のご要望を叶えるための装置開発が進んでおり、今後もさらに生産性を高めるための開発を続けていければと思います。
森:これまでの不可能を可能にしたこの新たな技術は、プロダクトアウトの発想で展開しているもののため、ここから用途を作っていく必要があります。
今回ご紹介したナノ銀やナノ銅、さらに次の段階では発熱量の大きい部品に使われる「放熱基板」への適用を目指して……と、より多くのお客様のご要望を満たすべく用途開発にチャレンジしていければと思います。
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